第78章 触れないで

夜の渋谷。雨上がりの濡れた街路にネオンライトがまだらな光を落としている。

桐谷淵は細い路地の奥に佇む静かなバーの木製扉を押し開ける。空気にはウイスキーと葉巻が混ざった淡い香りが漂っている。

江教授と林逸安は既にカウンターの最奥の席で彼を待っていた。

桐谷淵はコートを脱ぐ。いつも通り無駄のない動作だが、いつにない余裕が滲んでいる。

「顔色がずいぶん良くなったな。」

林逸安はグラスを手に、しばらく彼の顔を眺め、意味深な笑みを唇に浮かべる。

「以前のような、絶え間ない頭痛と不眠に苦しむ様子が見られなくなった。何か特別な『治療』でも受けたのか?どこかの女性が……」

酒を飲んでいた江教授はこの言葉を聞...

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