第1話
「アレッシア、結婚式は中止にしよう」
携帯の向こうから、ダンテの声が微動だにしないほど平静に響いた。
私は電話を握りしめ、指先が冷たくなった。
「なぜ?」
「ヴァレンティーナが離婚した。今、彼女は俺を必要としている」
ヴァレンティーナ。
またヴァレンティーナか。
この名前は、数年間私の心に刺さった棘のようで、今やついに私の全身を貫き通そうとしている。
私は彼の今の姿を、ほぼ想像できた。眉をひそめ、その瞳には私が今まで見たことのない焦りと心配に満ちている。
「ダンテ、明日は私たちの結婚式よ」私の声は震えていた。
「分かってる」
「じゃあ、私たちの婚約はどうなるの?この数年間は何だったの?」
電話の向こうは長い沈黙に包まれた。彼がもう電話を切ったのかと思うほど長く。
「ごめん」
彼はその言葉だけを口にし、通話を切った。
「プープー」という通話中の音は、まるで私の数年にわたる一途な妄想を嘲笑っているかのようだった。
私は思っていた。長い年月が経てば、どんなに冷たい心も溶けるだろうと。
私は思っていた。ヴァレンティーナが結婚すれば、私が勝ったことになるのだと。
私は思っていた。私が待ち続ければ、いつか彼は私の優しさに気づいてくれるだろうと。
でも、私は間違っていた。
私は永遠に、ただの代用品に過ぎなかったのだ。
ドアが勢いよく開かれ、ダンテの母――私のお義母さんとなるはずだった女性――が彼の父アルドを連れて押し入ってきた。
「ダンテはどこよ?!」ジュリアの顔は青ざめていた。
私は無感覚に携帯電話を掲げた。「彼は出て行ったわ。ヴァレンティーナに会いに行ったの」
「このろくでなしめ!」アルドは怒りのあまりテーブルを叩いた。「再婚した女のために、両家の提携まで捨ててしまうとは!」
ジュリアは私を見つめ、複雑な眼差しを浮かべ、やがて憐れみの色に変わった。「アレッシア、本当にごめんね」
私は首を横に振った。笑う気にはなれなかった。
これは不憫なことなんかじゃない。ただの笑いものだ。
私、一族の令嬢アレッシアが、上流社会で最大の笑いものになってしまった。
ジュリアは私の手を握り、切迫した口調で言った。「アレッシア、聞いて。結婚式は中止できないわ!」
私は顔を上げて彼女を見たが、その意味がわからなかった。
「ダンテというろくでなしは信用できないけど、一族にはあなたという嫁が必要なの」
アルドは険しい顔で言葉を続けた。「もう決めたんだ。ダンテの弟に代わって、君と結婚させるのだ」
弟?
ダンテは一人っ子だ。まさか弟がいるとは?
「ドンが昔、外で放浪していた時の隠し子で、つい最近見つかったばかりなの」とジュリアは説明した。「表には出せない存在だけど、やはり一族の血筋よ。あなたが嫁いでくれば、依然として一族の嫁であり、両家の提携もこれまで通りよ。ダンテの所有するものはすべて、将来あなたとあなたの子供のものになることを保証するわ」
彼らの言葉にわたしは強いショックを受け、頭がくらくらした。
彼らは私の気持ちなど気にも留めていない。私が誰と結婚するかも気にしない。
彼らが気にかけているのは、政略結婚がもたらす莫大な利益だけだ。
彼らの目には、私はアレッシアではなく、ただ一族に利益をもたらすための道具に過ぎない。
ダンテもそう。
彼の両親もそう。
極限の不条理と絶望が私を押しつぶした。
彼らの焦りと計算に満ちた顔を見て、私はふと笑った。
「いいわ」
私は言った。
「結婚する」
