第70章

「いいえ、結構です。運転は慣れていませんし、毎日タクシーか地下鉄を使うほうが便利ですから」

 藍原華月は、免許こそ持っているものの、一人で路上に出る勇気がないとは口が裂けても言えなかった。

 今となっては、アクセルとブレーキの区別さえ怪しいかもしれない。

 時間を確認すると、授業の開始時刻が迫っていた。藍原華月は車のドアを開け、外へと降り立つ。

「もう授業に行きますね。また夜に」

 そう言い残し、彼女は足早にキャンパスへと駆け込んだ。

 校舎の入り口に差しかかったところで、碧井奏が手を振っているのが見えた。

「こっちだ! 藍原華月、急げよ。遅刻するぞ」

 その姿を認めるなり、...

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