第1章

瀬川葵視点

T市の田舎からC市の大豪邸に引っ越すというのは、地獄からいきなり天国に飛び移るような感覚だった――ただし、自分が本当に死んだのかどうかは定かじゃない。

私の使い古されたスーツケースが、宮殿のような玄関ホールにぽつんと置かれ、場違いにもほどがあった。母――いや、今は黒木怜美さんと呼ぶべきか――は、私たちのわずかな荷物を神経質そうに片付けている。

半年前、母はまだ瀬川怜美で、黒木侑李さんの秘書であり、必死に働くシングルマザーだった。それが今や、C市でも有数の富豪の妻だ。時々、これがまるでおとぎ話のように感じられた――ただ、結末が物語のようにハッピーエンドになるかは、私には分からなかった。

「おかえり、瀬川葵ちゃん。ここが今日から君の家だ」

黒木侑李さんは温かい笑みを浮かべて両腕を広げた。その笑顔は十分に本物に見えたけれど、実際のところはどうだか。

私はあんぐりと口を開けないように必死でこらえた。天井は聖堂のように高く、クリスタルのシャンデリアは目が痛くなるほど眩しい。大理石の床は鏡代わりに使えるほど磨き上げられている――この床だけで、私たちの田舎の一軒よりも価値があるに違いない。

テレビで見る豪邸ドラマより豪華だ。

「ありがとうございます、黒木さん」

私はなんとか笑顔を作った。

母が私の肩を優しく叩き、その瞳に心配の色が揺らめいた。

「葵ちゃん、リラックスして。ここが私たちの新しい家なのよ」

母は簡単なことのように言うけれど、彼女自身もまだ順応しようとしているのが分かった。秘書から裕福な主婦へ――それは山を飛び越えるよりも大きな跳躍だ。

夕食では、真っ白なテーブルクロスがかかった長いテーブルにつき、手の込んだ料理を前に、高価な銀食器を慎重に扱った。

「黒木悠奏は今夜、友人の成宮拓也の家に泊まっている。会うのは明日になるだろう」

黒木侑李さんはステーキを切りながら何気なく言った。

「君たちも歳が近い。きっといい友達になれるさ」

友達? 私は心の中でため息をついた。金持ちの男の子と、私みたいな女の子? きっと見向きもされないだろう。

それでも私は頷いた。

「お会いするのを楽しみにしています」

大嘘だ。

真夜中、不眠症が招かれざる客のように私の脳にまとわりついていた。

この部屋は広すぎた――迷子の蟻になった気分になるほどに。ベッドは柔らかすぎ、カーテンは厚すぎ、空気さえも綺麗すぎる匂いがした。すべてが完璧すぎて、自分が侵入者のように感じられた。

あの小さな田舎での質素な暮らしが恋しかった。

私はこの「新しい家」に慣れるため、探検することにした。

冷たい大理石の上を裸足で、幽霊のように廊下をさまよう。床から天井まである巨大な窓から月明かりが差し込み、すべてを銀色に染めていた。

その時、物音が聞こえた――キッチンからだ。

何かを漁る音と、低い悪態。

心臓がドクンと跳ね上がった。泥棒? こんな金持ちの住む地域に?

玄関ホールから装飾用の野球バットを掴み、キッチンへと忍び寄った。

「動くな!」

私はバットを振り上げ、部屋に飛び込んだ。

「もう警察には通報したから!」

そして、彼を見た。

シャツを着ていない上半身は、月光に照らされて彫刻のように筋肉の輪郭が浮かび上がっている。無造作な茶色髪。こちらを振り向きながら、リンゴをかじっている。その瞳――真夜中の海のような、青い瞳。

彼はゆっくりとリンゴを咀嚼し、その視線が私のボサボサの髪からパジャマへと移り、最終的に私の手の中のバットに落ち着いた。彼の口元が、ゆっくりと意地の悪い笑みに歪む。

「おやおや」

彼の声は深く、魅力的で、どこか嘲るような響きがあった。

「君が例の、田舎からのお姫様か」

お姫様? 私は歯を食いしばり、バットを強く握りしめた。

「俺の縄張りへようこそ、お嬢さん」

彼は私の脅しに全く動じることなく、リンゴをもう一口かじった。

「あなたの縄張り?」

私は筋肉をこわばらせた。

「ここは黒木さんの家よ!」

「その通り」

彼が一歩前に出ると、私は思わず後ずさり、背中に大理石のカウンターが当たった。

「俺は黒木悠奏。そして君、瀬川葵は、俺のキッチンで俺に武器を向けている」

私の頭は完全に真っ白になった。

彼が、私の義理の兄――黒木悠奏!

「じゃあなんでこそこそしてたのよ!」

私は勇気を保とうと、言い返した。

「まるで泥棒みたいだったじゃない!」

「ここは俺の家だからだ。食いたい時に食う」

彼はさらに近づき、私たちの間はもう数センチしか離れていない。彼の匂いがした――汗と混じった、何か高そうなコロンの香りが、腹立たしいほどに良い。

「だが、武器を持ってうろついてるのは君の方だぜ」

「私は――」

「何だ?」

彼の声が突然、危険な響きを帯びた。

「ガラクタでも盗まれると思ったか? それとも、君の高貴なご身分には、この家は安全じゃないとでも?」

頭に血が上った。

「この野郎――」

私はバットを振り抜いたが、こいつは稲妻のように速かった。彼は私の手首を掴んで捻り上げ、バットは床にガチャンと音を立てて落ちた。私はカウンターに押し付けられ、彼の胸が背中にぴったりとくっついた。

「離せ!」

必死にもがいたが、彼はあまりにも強かった。

「落ち着けよ、お姫様」

耳元で囁かれた彼の息に、背筋がぞくりとした。

「親父に、新しい義妹がキッチンで俺に襲いかかってきた理由を説明したくはないんだが」

義妹。その言葉が、平手打ちのように私を打ちのめした。

私は彼の脇腹に肘鉄を食らわせ、彼が痛みで力を緩めた隙に、くるりと向き直った。今や私たちは向かい合い、彼がカウンターに両手をついて、私を完全に閉じ込めている。

彼の体温を感じ、その瞳の青のあらゆる色合いが見えるほど近い。

「私に近づかないで」

私は彼を睨みつけ、強く聞こえるように努めた。

彼は私を見下ろし、その瞳の中で何かが燃えていた。

「困るな、お姫様。俺たちは同じ屋根の下に住んで、同じ学校に通うんだぜ」

彼が指で私の頬をなぞり、私はそれを強くはたき落とした。

「触らないで」

「ご随意に」

彼は一歩下がったが、あの腹立たしい笑みは崩さなかった。

「いい夢を、瀬川葵。明日、学校でな」

彼は階段の方へ消えていき、キッチンには心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動する私だけが残された。

このクソ野郎。

西坪私立高校は、まさに映画に出てくる学校そのものだった――クラシックな建築様式、完璧に手入れされた芝生、空気さえも特権階級の匂いがした。

廊下を歩く生徒たちは高価な制服を身につけ、それぞれが大金に値するアクセサリーを身に着けている。私は背筋を伸ばし、気圧されるなと自分に言い聞かせた。

瀬川葵はどんな挑戦も恐れない。

だが、カフェはまた別の話だった。

トレイを持って席を探していると、無数の視線がレーザーのように私に突き刺さるのを感じた。囁き声が影のようについて回る。

「見て、あの子が田舎の子よ…」

「母親が黒木さんとデキたって聞いたわ…」

「リアルシンデレラストーリーね…」

私は隅の空いているテーブルを選んだ。腰を下ろした途端、聞き覚えのある声がした。

「おや、これはこれは」

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