第4章
絵里視点
十七歳から十九歳まで、私は和也に甘く、そしてどうしようもない片思いをしていた。
この二年間、私はただひたすらに勉強に打ち込んできた。いつか和也のような優秀な医師になることを夢見て。彼に証明したかったのだ。私はもう、ただ守られるだけの小さな女の子ではない、彼の隣に並び立つパートナーとして、彼にふさわしい一人の女性なのだと。
高校の課程を飛び級で終え、首席の成績で医学部に出願した。夜遅く、和也が書斎で仕事をしているとき、私は彼の集中した横顔をこっそり盗み見ては、さらに必死に本にかじりついた。
『いつか、和也は私を女として見てくれる』
『いつか......』
けれど、和也は私の変化に気づいていたようだった。ここ数年、彼は微妙な距離を保つようになった。以前のように気軽に私の髪をくしゃくしゃにすることも、私が泣いているときにためらいなく抱きしめてくれることもなくなり、二人きりで過ごす時間さえ減っていった。
『何か気づかれたのかな?』
『私、あからさますぎる?』
その一方で、私は次から次へと和也の人生に現れる女性たちを見ていた。病院の婦長である恵美、チャリティーガラで出会った弁護士の香織、そして絶えず彼に花を贈ってくるバレエダンサーの美咲……
彼女たちが和也と親密に話しているのを見るたび、私の心は酸で腐食していくような気がした。
でも、何も言えなかった。何もできなかった。
なぜなら、私はただの彼の『名付け娘』だったから。
十九歳の春、D大学医学部から合格通知が届いた。
「絵里! 絵里! こっちへおいで!」
居間から和也の興奮した声が響いた。
私は解剖学の教科書を放り出し、居間へと駆けつけた。床まで届く窓から陽光が差し込むコーヒーテーブルの上に、分厚い封筒が静かに置かれていた。
和也はその傍らに立ち、微笑んでいた。「開けてごらん」
私の手は震えながら封筒を破った。「合格」の二文字が目に飛び込んできたとき、私はほとんど信じられなかった。
「やった! 和也、D大医学部に受かったよ!」
「やっぱりな!」和也は私を抱き上げ、くるくると回した。「誇らしいよ、絵里!」
彼の腕の中で、私は慣れ親しんだコロンの香りを嗅ぎ、彼の力強い心臓の鼓動を感じた。その瞬間、私は心に秘めていたことを口走りそうになった。
『和也、愛してる』
『名付け娘としてじゃなく、あなたの女性として、一緒にいたい』
でも、彼が私を降ろしたとき、その瞳に宿る誇りと愛情が私に思い出させた。彼の心の中では、私はまだ子供のままなのだと。
「お祝いしなくちゃな!」和也は興奮して言った。「今夜はパーティーを開いて、友達をみんな呼んで君を祝おう!」
「そんなに大げさにしなくても……」
「とんでもない!」彼は譲らなかった。「これは君の人生で最も重要な瞬間の一つだ。みんなに知らせないと、絵里が医者になるってことを!」
彼の瞳の輝きを見つめていると、私の心に大胆な考えが湧き上がった。
『今夜』
『今夜、彼にこの気持ちを伝えるんだ』
その夜、私は寝室の姿見の前に立っていた。薄いカーテン越しに月明かりが床に差し込んでいる。
去年、和也が買ってくれたシャンパンカラーのシルクドレスを、慎重に選び、身につけた。ドレスは私の体つき――豊かな胸、くびれたウエスト、すらりと伸びた脚――を完璧に引き立てていた。髪は優雅な低いシニヨンに結い上げ、長い首筋と、あのハート型のダイヤモンドのネックレスを際立たせた。
鏡の中の女性は、もう何年も前の、あの華奢な少女ではなかった。
『和也は私の変化に気づいてくれただろうか?』
『私がもう女になったって、分かってくれただろうか?』
私は化粧台まで歩き、鏡に向かってこれから言うつもりの言葉を練習した。
「和也、愛してる」静かな部屋に、私の声が透き通るように響いた。「娘が父親を愛するようにじゃなくて、一人の女が一人の男を愛するように」
鏡に映る私は、頬を上気させ、決意に満ちた瞳をしていた。
「これが常軌を逸しているのは分かってる。社会の道徳に反することも……でも、もう隠しきれないの」
『彼はどんな反応をするだろう?』
『冷たく拒絶される?』
『それとも……彼も同じ気持ちでいてくれる?』
階下から来客たちの声が聞こえてくる。私は深呼吸をして、最後にもう一度自分の姿を鏡で確認した。
『今夜、すべてを手に入れるか、すべてを失うかだ』
五条邸の大ホールは、談笑の声で賑わっていた。和也は病院の同僚や私の先生、そして家族ぐるみの友人を招待していた。頭上ではクリスタルのシャンデリアが煌めき、長いテーブルには極上の料理とシャンパンが並べられている。
私はゆっくりと階段を降りながら、すべての視線が自分に集中するのを感じた。
「なんてこと、絵里、本当に素敵よ!」梨乃が息を呑んだ。
「俺たちのお姫様も大きくなったもんだな!」原田さんが笑った。
しかし、私が気にしたのはたった一人の反応だけだった。
和也は完璧に仕立てられたチャコールグレーのスーツに身を包み、階段の下に立っていた。その姿は破壊的なほどにハンサムだった。彼が私を見たとき、その瞳に今まで見たことのない何かがきらめいた――驚き、戸惑い、そしてほとんど気づかないほどのパニックの気配。
「絵里……」彼はかすれた声でそっと言った。「今夜......綺麗な」
『気づいてくれた』
『私がもう子供じゃないって、やっと気づいてくれたんだ』
私は太鼓のように鳴り響く心臓を抱えながら、優雅に彼の方へ歩み寄った。「ありがとう、和也。今夜は私にとって、すごく意味のある夜なの」
ちょうどその時、私の背後から若い男性の声がした。「五条絵里さん?」
振り返ると、背が高くハンサムな青年がこちらに近づいてくるところだった。彼は二十四、五歳くらいに見え、茶色い髪と人懐っこい笑顔をしていた。
「僕は太郎、三浦太郎です」彼は手を差し出した。「B市総合病院で研修医をしています。和也先生が指導医で。先生からあなたのことはよく伺っています」
「初めまして」私は礼儀正しく彼と握手した。
「実は僕、D大医学部の卒業生なんです」太郎さんは熱心に言った。「あなたも合格したって聞きました。ほとんど同窓みたいなものですね! 何かアドバイスが必要なら、気軽に聞いてください」
和也の表情が瞬時に険しくなり、ほとんど無意識に私に一歩近づいたのに気づいた。
「太郎、絵里は今夜、手一杯だと思うぞ」
「もちろん、もちろん」太郎は微笑んだが、視線は私から離さなかった。「よかったら今度コーヒーでもどうですか? D大の面白い話も聞かせられますよ」
私が答えようとした瞬間、和也が突然言った。「太郎、原田さんが君を探していたぞ。症例のことで話があるそうだ」
「あ、そうでした」太郎さんは名残惜しそうに私を一瞥した。「また後でゆっくり」
太郎が去っていくのを見送り、和也の方を振り返ると、彼の顎が固く食いしばられているのが分かった。
『怒ってる?』
『どうして?』
もしかして……もしかして和也は、嫉妬しているの?
喜びが心に込み上げてきた。
パーティーは順調に進んだ。誰もが私を祝福し、和也は誇らしげな父親のように私の功績を披露して回った。
「絵里は学業が優秀なだけでなく、真の癒やし手の心を持っている」和也はシャンパングラスを掲げ、誇りに満ちた目で言った。「我々の小さな天使に……いや、未来のドクター・絵里に乾杯!」
「乾杯!」と全員が声を合わせた。
私は和也を見つめ、津波のように愛が心に押し寄せた。
『ドクター・絵里って呼んでくれた』
『もう小さな天使でも、お姫様でもない』
『これは、彼が私を大人の女性として見始めたってこと?』
パーティーがお開きに近づき、ほとんどの客が帰って行った。私はバルコニーに立ち、涼しい夜風がドレスを揺らすのを感じていた。月が空高くかかり、屋敷の庭園に銀色の光を投げかけている。
「絵里?」背後から和也の声がした。
振り返ると、彼が一人でバルコニーに入ってくるところだった。
『今だ』
『今しかない』
「和也、こんなに素敵なパーティーを開いてくれてありがとう」私は声を震わせないように努めて言った。
「君は最高のものに値するよ」彼は私の隣に立ち、手すりに寄りかかった。「本当に誇りに思う。裕也と沙織も、今日の君を見たらきっと喜んだろうな」
両親の名前に、胸が重くなった。だけど今夜は、私の真実を伝えなければならない。
「和也、話があるの」私は深呼吸をして、彼に向き直った。
「なんだい?」
月明かりの下、彼の瞳は星のように深かった。私はその瞳を見つめ、持てる限りの勇気を振り絞った。
「和也、私はもうあなたの名付け娘じゃなくて、あなたの女になりたいの」
