第35章

「咲良を守ってくれた。感謝するよ」

上田景川は「早く来い、時間を無駄にするな」と言った。

月野里奈は唇を噛み締め、体を支えながら車から降りた。足は全く力が入らず、ほとんど即座に上田景川の背中に倒れ込んだ。

男の広く厚みのある肩と背中が彼女をしっかりと受け止め、片手を彼女の膝の裏に通して太ももを支え、しっかりと固定したことを確認するとすぐに立ち上がって前へ歩き始めた。

月野里奈は呆然と上田景川の背中に身を預けながら、何故だか、ずっと昔の上田景川のことを思い出していた。

桜の木の下の白い服を着た少年は、かつて月島里奈の最も美しい思い出であり、また彼女を深淵へと落とす始まりでもあった。

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