第3章
今、彼は私の返信を焦燥に駆られて待っている。これから何が起こるのか、まったく気づいていない。
「野宮さん、おっしゃっていたキャッシュバックキャンペーンとは何ですか？一万円で二万円返ってくるんですか？」
彼はプライベートチャットで尋ねてきた。
私はキーボードを叩き、完璧な東京弁で返信する。
「はい、ただいま春のキャンペーン中でして、一万円で二万円、五万円なら十万円がキャッシュバックされます。でも、人数に限りがありますのでお早めに～」
希が私の背後に立ち、スクリーン上の会話を眺めている。
「お前ら日本人は本当に騙しやすいな」
彼は鼻で笑った。
「『限定』と『お得』って言葉を出せば、途端に目の色を変えやがる」
私は応えず、他の内部アカウントを操作してグループ内の雰囲気作りに徹する。「秋葉原ゲーム王」がメッセージを発信した。
「みんな見ろ！新作ゲームがマジで最高だぜ。三万で限定版を手に入れた。超ラッキー！」
案の定、彼はすぐに二十万円を振り込んできた。
「お前は本当にプロだな」
希は私の肩を叩いた。
「その手口、俺でさえ信じそうになったぜ」
私は微かに笑い、タイピングを続ける。
「あ、申し訳ありません。お客様のアカウントに異常が検出されたとシステムに表示されています。恐らく、最近のキャンペーン参加者が多すぎたための誤作動かと思われます。アカウントの凍結解除手続きをお願いいたします」
「どうやって解除するんですか？」
彼は即座に返してきた。
「認証金としてさらに十万円の入金が必要です。システムが確認次第、全額返金され、補償として追加で十万ゲームポイントを贈呈いたします」
十分後、彼はさらに十万円を振り込んできた。
技術部の人間が素早く介入し、彼の銀行口座情報の追跡を開始する。私はさらに彼を誘導した。
「システムは依然として異常を表示しています。お手数ですが、キャッシュカードの暗証番号と携帯電話の認証コードを教えていただけますか？弊社の技術者が直接お客様の代わりに処理いたします」
「口座に五千万円あります」
彼は返信してきた。
「父が東京のマンションの頭金にと、振り込んでくれたばかりなんです。もし凍結されたら困ります」
五千万円。一瞬眩暈がしたが、すぐに平静を取り戻した。
技術部がその金を複数の日本の口座へと分散送金し始める中、私は彼を安心させ続ける。
「現在、処理中です。ちなみに、システムが連鎖反応を起こしたのか、私のアカウントも凍結されてしまいました。私の凍結解除を手伝っていただけませんか？」
彼は狼狽した。
「どうやって手伝えば？」
「私のアカウントが正常であることを証明するための資金証明が必要です。少し資金を貸していただけませんか？システムが復旧次第、すぐにお返しします」
白さんがいつの間にか私の背後に立っており、流暢な日本語で技術部に指示を飛ばしていた。
「速度を上げろ。彼に考える時間を与えるな」
「野宮さん、もう振り込みましたよ、まだですか！」
相手から焦った様子のＬＩＮＥメッセージが届いた。
「もし私が詐欺師なら、家族全員死に絶え、先祖代々十八代まで浮かばれないでしょう」
私はそう返信した。
白さんは眉をひそめ、私の「誓い」に驚いたようだった。
最終的に、彼は親戚や友人、そして日本の消費者金融からかき集めた三千万円を私に振り込んだ。
九分後、白さんが頷いた。
「完了だ」
私は最後に文字だけ返信した。
「通報しろよ」
そして彼をブロックした。
「あの毒々しい誓いはなかなかだったな」希が笑った。
白さんが直々に桜花組へやって来て、全員の前で私に十万円の報奨金を手渡した。
「野宮君、君の詐欺テクニックは実に印象的だ」
私の業績は、すでに桜花組の記録を更新していた。
「今日から、君は豪華な個室に住んでいい」白さんが宣言した。
私は隅にいる他の日本国籍の従業員たちに目をやった。彼らは足枷を嵌められ、雑居房に押し込められて生活している。一方、私はこれから個室と温かいシャワーを手に入れるのだ。
山田という日本人の男が、憎しみを込めて私を睨みつけていた。彼はかつて桜花組の業績トップだったが、今や私に追い抜かれたのだ。
「野宮、俺たちのうち、どっちが先に地獄に落ちると思う？」
山田は低い声で脅してきた。
「俺たちは同じ日本人だ。仲間を陥れるべきじゃない」
私はわざと大声で応じた。
「希さん、誰かに脅されてます！」
希がすぐにやって来て、山田の腹を蹴り上げた。
「この豚野郎が。俺たちの金のなる木を脅すとは、いい度胸だな？」
夜、私は希から鉛筆を一本借り、個室に戻るといくつかの日本の名前を書き出して紙片にした。
「妙な気を起こすなよ」
希は私に警告した。
「お前らが逃げでもしたら、もっと厳しい罰が待ってるからな」
彼が去った後、私は紙片を開き、「田中恵子」という名前に目を落とした。私の中学時代の同級生であり、最初のいじめの加害者だ。
私は興奮を覚えた。復讐計画が、正式に始まったのだ。
翌日、私の弁当の中からガラスの破片が見つかり、口の中が切り裂かれて血まみれになった。
希は傷の手当てをしてくれたが、白さんへの報告は拒否した。
「お前たちの揉め事は、自分たちで解決しろ」
私はこれを機に、園内の医療施設と人員の流動状況を観察した。私の計画にとって非常に有益な情報だ。
しかし、白さんは結局この状況を知ることになった。彼は山田を連行し、「屠殺場」へと送った。間もなく、山田の悲鳴が園区全体に響き渡った。
私は三日間入院し、吐血が止まらなかった。園区の医者は私の傷を乱暴に扱い、私の痛みなど気にも留めない。
白さんが山田を罰したのは「見せしめ」のため、特に他の日本国籍の従業員たちを威嚇するためだと分かっていた。私はベッドに横たわり、口に縫合糸をかけられたまま、それでも次のターゲットである田中恵子に対する詐欺の準備を進めていた。
山田は先に地獄へ行った。だが、彼が最後ではない。
「姉さん」
私は静かに呟いた。
「私たちを傷つけた奴ら全員に、代償を払わせてやる」
