第8章
白さんの部屋の前に立ち、深呼吸を一つしてから、そっと三度ドアをノックした。
「入れ」
ドアを開けると、白檀の香りがふわりと鼻を掠めた。白さんは窓際のソファに腰掛け、手には日本語の書籍を広げている。私は何も言わず、まっすぐ彼の前まで歩いていくと、ゆっくりと膝をついた。
「白さん」
私は静かに呼びかけ、同時に上着のボタンを外していく。
「可愛がってください」
白さんは本を置き、その目に笑みを浮かべた。
彼は手を伸ばして私の頬を撫でる。その口調は優しかったが、疑う余地のない確信が込められていた。
「野宮遥、思ったより来るのが早かったな」
私は驚いたふりをして、目をわず...
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