第112章 善し悪しの分からないバカ

伏見盛重は車を降りると運転席に回り込み、アクセルを乱暴に踏み抜いた。

車体が弾けるように前へ飛び出す。まるで放たれた矢――。

突き上げるような加速に、涼宮寧音は息を呑んだ。反射的に手すりへ指を絡める。

「伏見社長、どこへ連れていくつもりですか」

伏見盛重は答えない。アクセルは床まで沈んだまま。

車はP市の街路を狂ったように縫っていく。信号も、曲がり角も、すべてが刃物みたいに鋭い。

寧音の心臓が喉元までせり上がった。背筋を冷たいものが走る。

――この男、今は危険だ。

「伏見盛重、止めて!」

叫んでも、彼は聞こえないふりをした。速度はさらに上がり、やがて車は廃れた倉庫の前で急停...

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