第29章 伏見グループへようこそ

「寧音、俺だ」

江口辰木はわざと声を落とし、自分では甘く低い「いい声」のつもりらしい。

涼宮寧音は答えず、視線の端で伏見盛重をうかがった。

姿勢は微動だにしない。二人の通話など、興味すらないのだろう。

それでも車内の空気だけは、さっきより数段冷えた。

電話の向こうで、江口辰木は返事がなくても気まずがらない。勝手に言葉を継ぎ、情に訴える懺悔を並べ立てる。

「寧音、ごめん。今日のことで、嫌な思いをさせたのは分かってる」

「遥香の件は俺が悪かった。距離感がなかった。体が弱いからって、つい世話を焼きすぎて……お前に誤解させた。安心しろ、これからはきちんと線を引く」

誠実さを装い、深情...

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