第38章 その価値を信じる

一方そのころの涼宮寧音は、そんなことなど知る由もなかった。

マンションに戻るなり、彼女は浴室へ身を投げ込む。ぬるい湯が肌を撫で、まとわりついていた不快感まで洗い流していく――そう思いたかった。

江口辰木も、涼宮家の連中も、骨に絡みつく病巣みたいなものだ。息がつける、と油断した瞬間に限って、いちばん胸糞の悪いやり方で突きつけてくる。あの汚れた過去は、まだ終わっていないのだと。

目を閉じると、前世の記憶が断片になって脳裏を刺した。

辱められ。搾り尽くされ。価値が尽きたら、ゴミみたいに捨てられる。

――今世は、絶対に違う。

ぱっと目を開ける。瞳の奥は澄みきっていて、迷いの影は一欠片もな...

ログインして続きを読む