第167章

同日の夜。S市、薔薇の旧邸にて。

アンティーク調の黒いドレスを纏った女が、庭のブランコに腰を下ろしている。木漏れ日のような月光が静かに降り注ぎ、彼女の横顔を淡い銀色に縁取っていた。

「菊池奥様」

千堂真崎は淡いブルーのロングドレスを身にまとい、音もなく三歩手前まで近づくと、そっと声をかけた。

「葉原遥子に目立った動きはないようね。私がもうひと押しする必要があるかしら?」

「必要ないわ」

菊池雪音の声は冷ややかだ。

「準備が整えば、向こうから勝手にやって来る」

「かしこまりました、奥様」

千堂真崎は恭しく頭を下げた。

二人の間に沈黙が降りる。庭には夜風が木々を揺らす衣擦れの...

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