第211章

「カチリ」と乾いた音が響き、錆びついた缶の蓋がゆっくりと持ち上がる。防虫剤の微かな匂いが、歳月の降り積もった埃の香りと共に鼻先を掠めた。

葉原遥子は軽く眉を寄せ、鼻先で手を振ってその匂いを払う。

箱の中には、雑多な品々が無造作に放り込まれていた。色褪せた古い写真、折り目のついたバースデーカード、そして小さな皮表紙の手帳。

「これは……」

葉原遥子の指先が微かに震え、写真の中の母親の顔をそっと撫でる。

これほどまでに屈託なく笑う母の姿を、彼女は見たことがなかった。

「えっ? すごく綺麗!」松本彩はぱちくりと瞬きし、顔を近づけて感嘆の声を漏らす。「驚いた、平沢君のお母さんも写ってるじ...

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