第258章

「来ないかと思っていたよ」

 鬼龍院煉はソファに気だるげにもたれかかり、仮面の下の薄い唇を歪めて弄ぶような笑みを浮かべた。その視線は、無遠慮に彼女の赤い髪とラフな服装を舐めるように這い回る。

「葉原さん、今日のその格好のほうが、撮影現場の時より魅力的だ」

「お褒めにあずかり光栄です」

 葉原遥子は冷ややかに言い放ち、目を細めた。鬼龍院煉のボックス席の前に立ち、彼を居丈高に見下ろす。

「鬼龍院様のお招きを、断る勇気などありませんから」

 鬼龍院煉は軽く肩をすくめた。

「俺に攫われるとは思わないのか?」

 葉原遥子は鼻で笑い、彼の向かいに腰を下ろす。長い足を優雅に組み、口角だけを...

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