第117章 婚約は取り消さない

彼女の視線はガラス窓をすり抜け、病室の中にいる新井飛鳥の背中へと落ちた。

 彼はわずかに身をかがめ、片手で茶碗を持ち、もう片方の手にしたスプーンで、池田暁月がひと口飲み込むのを辛抱強く待ってから、次のひと匙を差し出している。

 その仕草はそっと慎重でありながら、ひどく自然だった。まるで、この先の人生すべてを懸けてでも守りたい宝物を扱うみたいに。

 宮本明珠はもともと姉を見舞う名目で病室まで来ただけだった。けれど廊下に差しかかったところで、両親が婚約をそのまま残す相談をしているのを耳にしてしまい、胸の奥がずしりと沈んだ。

 ガラス越しに見える新井飛鳥は、目の中にも心の中にも池田暁月しか...

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