第128章 折り返し

池田暁月は助手席に座り、スマホを握りしめていた。画面には、さっき書き留めたメモ。

木下秀華の夫は町の病院で裏方の仕事をしていた。子どもは生まれてすぐ抱き上げられ、そのまま消息が途絶えた。

その数行を、彼女は何度も何度も読み返す。文字の一つひとつが釘みたいに、ばらばらだった推測を一本ずつ打ち込み、事実という枠へ固定していく。

車は円磨村を出て、山肌に沿う未舗装の道をがたがたと揺れながら二キロも走らないうちに、池田暁月がふいに言った。

「停めて」

新井飛鳥がブレーキを踏み、彼女を振り返る。

池田暁月は説明しない。シートベルトを外し、ドアを押し開けて降りた。

山道の縁に立つ。谷底から...

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