第166章 綻び

彼女は余計なことを言うべきじゃないと分かっていた。けれど、宮本明珠の飾り気のない、青白い顔を見てしまうと、どうしても口が滑った。

「奥様は大丈夫です。ただ……毎日お嬢様のそばにいらして……池田嬢のそばに」

少し間を置いて、続ける。

「池田嬢、最近は年配の漢方医の先生に弟子入りなさって、朝早く出て夜遅く帰ってくるんです。それで奥様が、医学館までお弁当を届けに行かれることが多くて」

宮本明珠は小さくうなずき、視線を窓の外へ移した。真っ黒な松林。そこを見つめたまま、薄い声で言う。

「……それなら、よかった」

宮本明珠はやかんを手に取り、小田おばさんのために熱い湯を一杯注いでコンロ脇に置...

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