第38章 信頼の亀裂

池田暁月は動かなかった。

「今日、ずいぶん暇なんだね」

「暇じゃない」新井飛鳥の声は淡々としている。「でも、君に会いたかった」

今日の彼は濃いグレーの織り柄入りスーツ。シャツの襟元はボタンを一つ外していて、確かに会社帰りの装いだった。

それでも――宮本家の別荘は城北、新井ビルは城南。その間には雲市が丸ごと一つ挟まっている。

池田暁月は二秒ほど彼を見て、車のドアを開けて乗り込んだ。

宮本明珠はリビングの大きな窓の前に立っていた。浮かべていた笑みを引っ込める間もなく、口元がひきつる。

黒いマイバッハが門前に止まる。

新井飛鳥がわずかに首を傾け、辛抱強く池田暁月が乗るのを待っている...

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