第5章 婚約者

病室に、妙な沈黙が落ちた。

――この少女、自分の前に立っているのが誰だか分かっているのか?

新井家の海外を取り仕切る実力者。どれだけ頭を下げても取り入れない者が山ほどいる相手に、彼女は臆することなく「金」を要求したのだ。

金なんてただの道具だろう。普通なら、もっと別のものを欲しがる場面じゃないのか。

新井飛鳥は数秒、彼女を見つめ――ふっと口元だけを吊り上げた。

笑みは淡い。ほんのわずかに唇が弧を描いただけなのに、氷のように硬かった輪郭が一瞬でほどける。凍った水面の下から、春の光が一筋差し込んだみたいに。

「いい」

彼は静かに言った。

「爺様を救った。礼は弾む」

池田暁月は小さ...

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