第54章 茶番

池田花依は階段をゆっくり降りてきた。目は赤い。けれど、もう涙はこぼれていない。

父の激昂した背中を見つめ、そっと視線を落とす。口元に、見えるか見えないか程度の弧。

午前9時すぎ。ちょうど授業の移動が重なる時間帯だ。

彫刻の下に、池田健永が立っていた。

しわだらけのシャツに、斜めにずれたネクタイ。白目には血走った筋が浮き、まるで一睡もせず、さらに一晩じゅう火に炙られたみたいな顔つき。

その傍らに池田夫人と池田花依が並ぶ。

池田夫人は腕を組み、顎をつんと上げて「正義を取り戻しに来た」然とした態度。花依は母の背後で俯き、目尻を赤くして唇を噛み、言葉を飲み込んでいる。まるで、ひどい目に遭...

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