第72章 えこひいき

車のドアが閉まる音が、夜気の底で鈍く短く響いた。テールランプが暗赤の光の筋を二本引き、私道の突き当たりでふっと溶けるように消える。

宮本正言は玄関先に立ったまま、赤い点が遠ざかっていくのを見送っていた。やがて眉間に、じわりと皺が寄る。

新井飛鳥が、理由もなくあんなことを言うはずがない。

宮本明珠は、彼の前ではいつだって従順で、か弱い。愚痴も言わない。誰かを責めもしない。

けれど――もし新井飛鳥の言葉が本当なら。

正言の脳裏に、あの階段での一件がよぎった。

本当は、もう二度と見ないつもりだった。

だが今は、引っ張り出して見直すべきだと、そう思ってしまう。

新谷若夜が二階か...

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