第75章 嘘

あのホテルの従業員、清川平に――彼女は初めてを奪われていた。

加賀廷悟にそれが知られたらどうなるか。

あの男の、あの古臭い男尊女卑めいた価値観だ。きっと、自分が騙されたと思うに決まっている。

そうなれば、出資どころではない。婚約を破棄されなければ御の字だった。

何か手を打たなければならない。

ディナーの後半、池田花依は上の空で加賀廷悟の相手をしながら、頭の中だけを目まぐるしく働かせていた。

必要なのは策。

加賀廷悟に何ひとつ違和感を抱かせないための策だった。

会計を済ませた加賀廷悟は、ごく自然に彼女の腰を抱き寄せ、耳元で低く囁く。

「俺んとこ行くか? それともホテル?」

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