第86章 あがき

スポットライトが池田暁月を捉え、白いシャツに残る灰色の擦れ跡まで、やけにくっきりと浮かび上がらせた。

池田暁月が、現れた。

袖で隠れるはずもない汚れ。けれど彼女はそこに立つ。背筋は真っすぐ、抜き身の刃みたいに。

舞台袖、待機エリアの暗がり。幕の裏に身を潜めた宮本明珠は、爪が掌に食い込むほど拳を握りしめていた。

暁月の指先が画板へ落ちる。最初の一筆が引かれた、その瞬間――審査員席の誰かが、わずかに身体を前へ傾けた。

速い。迷いがない。

まるで、絵はすでに頭の中で何度も完成していて、今はそれを指先からこぼし落としているだけ――そんな筆致だった。

宮本明珠の瞳孔が、きゅっと縮む。

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