第2章

寮の鏡の前に、私は立っていた。妊娠検査の結果を、まるで強く握りしめれば消えてしまうとでもいうように、固く握りしめていた。鏡に映る自分は青白く、目は落ち窪み、絶望しきっていた。

「本当のことを言うのよ」自分に言い聞かせた。「彼は中島麻央を愛してる。きっと分かってくれる」

医学的な説明がつくのかもしれない。検査が間違っていたのかも。

一晩中眠れずに、同じことばかり考えていた。瑛太には知る権利がある。いつもみたいに、二人で一緒に解決策を見つけられるはずだ。

キャンパスを横切る道のりが永遠のように感じた。秋風がジャケットを突き抜け、学生たちは夕食へと急いでいた。彼らは普通の人たち。普通の問題を抱えた人たち。私とは違う。自分の体について知っていると思っていたことすべてを覆すような、ありえない妊娠なんて抱えていない人たち。

前方に桜井寮が見えてくる。赤レンガに、蔦の絡まる壁。開け放たれた窓からは、男子学生たちの笑い声が聞こえてくる。ここ二年間、私たちの第二の家だった場所。

慣れた階段を上って瑛太の部屋へ向かう。心臓が肋骨を激しく打ちつけていた。ドアの下から光が漏れ、聞き覚えのある声も聞こえてくる。

ノックしようと手を上げた、その時だった。固まった。

「なあ、俺の計算だと、中島はそろそろ陽性反応が出るはずだぜ」

瑛太の声。でも、冷たくて、事務的。私にかける優しい声色とはまるで違う。

結果?何の結果?

「おいおい、俺の子どもだって方に一人五百万賭けるぜ」松井翔太の自信満々な笑い声に、胃がひっくり返りそうになった。「ハロウィンパーティーのあの夜は完璧だったからな」

膝が砕けそうになる。壁に身を押し付け、必死に聞き耳を立てた。

「誰の子だろうと関係ない」瑛太は平然と、残酷に続けた。「あいつが妊娠しさえすれば、指輪をはめてやれるし、あの二億円の信託基金にもありつける」

妊娠検査の結果が、痺れた指から滑り落ちた。死にゆく鳥のように、ひらひらと床に落ちていく。

二億円?まるで宝くじみたいに、私の相続財産の話をしてる。

「お前、天才だな」小野隆の声が加わる。「パーティーのたびに酔わせて薬を盛って、俺たち全員に一発ヤらせてくれるとはな……」

一つ一つの言葉が、心臓に突き刺さるナイフだった。

薬を盛られてた。あいつらに。

あの記憶のない時間。あの靄のかかった朝。瑛太がいつもコーヒーと心配そうな笑顔を浮かべて現れた、あの……。

「藤本美咲は完璧な内通者だったな」瑛太が言った。私の世界が、さらに傾いでいく。「中島は自分のルームメイトを疑いもしない」

藤本美咲?私のルームメイトの、藤本美咲が?

「藤本美咲には何て約束したんだっけ?」井上直樹が尋ねた。

「クレジットカードの借金を肩代わりしただけだ。親友に薬を盛る報酬がたったの二百万――俺に言わせりゃ、かなり安いもんだ」

悲鳴を上げないように、自分の拳を噛んだ。藤本美咲の心配そうな質問。パーティーで私の飲み物を作りたがったこと。私が混乱してぼんやりと目覚めたときの、彼女の心配そうな顔。

私に毒を盛っていた。親友が、私に。

私はよろめきながら後ずさった。怒りと裏切りで全身が震える。驚いた顔の学生たちを通り過ぎ、階段を駆け下り、冷たい夜の空気の中に飛び出した。

駐車場には数台の車が点在するだけで、がらんとしていた。私は点滅する街灯の下の木製ベンチに崩れ落ち、ついに自分を抑えるのをやめた。

「五年も……」両手に顔をうずめて、しゃくりあげた。「五年もクソみたいな嘘ばっかり!どうしてこんなに盲目だったの?」

私が落とした妊娠検査の結果が、地面に散らばっていた。私の体に対する、あいつらの犯罪の証拠。

薬を盛られ、レイプされ、相続財産のすべてを奪う計画だった。

怒りが核爆発のように胸の中で炸裂した。私は検査結果の紙を掴むと、夜に向かって叫びながら、ずたずたに引き裂いた。

「あのクソ野郎!全部あいつらの計画だった。私に薬を盛って、それで……」

だが、猛烈な怒りが燃え尽きるにつれて、その下に冷たく計算高い何かが結晶化し始めた。

いや。あいつらの思い通りにはさせない。

ゆっくりと立ち上がると、新たな決意で背筋が伸びるのを感じた。

私は無力な被害者なんかじゃない。私は中島麻央だ。これよりもっと酷いことだって乗り越えてきた。

「一つ一つの嘘の代償を、きっちり払わせてやる」誰もいない駐車場に向かって、私は言った。その声は、死ぬほど静かだった。

瑛太が私の信託基金を欲しがってる?それがどういう結果になるか、見せてあげる。

寮の廊下に戻ると、静まり返っていた。ほとんどの学生は夕食か勉強中なのだろう。私は自分の部屋のドアの前に一分ほど立ち尽くし、仮面を準備した。

藤本美咲はリビングの床にノートパソコンを広げ、あぐらをかいて座っていた。無垢そのものといった姿だ。ピンクのパジャマ。無造作にまとめたお団子ヘア。私が気分が悪い時に背中をさすってくれ、くだらない男の子のことで泣いていた私の話を聞いてくれ、一年生の時からずっと親友だった、あの頃と同じ女の子。

金のために、私に薬を盛っていた女。

「ねえ、どこ行ってたの?」今では純粋な演技だとわかる、あの心配そうな笑顔で彼女は尋ねた。「夕食に戻ってこないから心配したよ」

「ちょっと散歩してただけ」自分の声がごく普通に聞こえたことに、我ながら誇らしく思った。「新鮮な空気が吸いたくて」

この嘘つき女。よくもまあ、そんな風に座って心配するふりができるものね。

「最近、様子が変だよ」藤本美咲は、偽りの同情を込めて首を傾げながら続けた。「瑛太くんと、何かあった?」

喉元を掴みかかりたかった。裏切りと信頼について、そして二億円が誰かの人生を破壊するほどの価値があるのかと、叫び散らしたかった。

代わりに、私は微笑んだ。

「すべて順調よ」私は甘い声で言った。「来月、特別なことを計画してるの」

ええ、特別なことを計画しているわ。ただ、あなたが考えてるようなものじゃないけど。

藤本美咲の目が、今では友情ではなく強欲だとわかる光で輝いた。「ほんと?どんな特別なこと?」

「見てればわかるわ」私はソファーに腰を下ろしながら言った。「忘れられないものになるから」

藤本美咲がノートパソコンに視線を戻す。おそらく、私たちの会話について瑛太にメールしているのだろう。私は天井を見つめながら、計画を練り始めた。

私の人生で?私の体で?私の信託基金でゲームをしたいって?

ありえない妊娠が育っているお腹に触れた。あいつらの犯罪の証拠。でも、どういうわけか、私の切り札でもある。

じゃあ、ゲームを始めましょうか。

私は中島家の人間。ただ生き延びるだけじゃない――支配するのよ。

そして、何から始めるべきか、私には正確にわかっていた。

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