第2話 二人でこのゲームをプレイできる
自分の声が、驚くほど自然に響いたことに、内心で少しだけ驚いていた。
石川悠真は、完璧な社交辞令を口にした。
「柚希さんの大切なご友人の皆様にお会いでき、光栄です」
その微笑みには陽だまりのような温かみがあり、飾らない色香に、室内の女性たちの視線が密かに集まるのが分かった。
私は、テーブルにいる全員の反応を観察する。久保拓也のあからさまな驚愕、女友達数人の目に浮かぶ隠しきれない嫉妬、そして……大塚健。彼の表情が、ほんの一瞬、凍りついたように崩れたのを、私は見逃さなかった。
「ちょっと、柚希! こんな素敵な人、ずっと秘密にしてたなんて!」
シャネルのスーツに身を包んだ女性が、甲高い声を上げた。
「彼、デザイナー? それともモデルかしら?」
「デザイナーです」私が答えるより先に、悠真が口を開いた。「オートクチュールを専門に」
席に着こうとした時、この夜の力関係は、単純な椅子の配置で決まるのだと悟った。
悠真と私は、隣り合って腰を下ろす。わざとらしく見えないよう、それでいて大塚健と池田花子の姿が完璧に視界に入る席を選んだ。
私がテーブルの皆に悠真を紹介し始めると、彼は礼儀正しく、気配りができ、適度な関心を示す、完璧なエスコート役を演じきってくれた。今夜の主役は私のはずだったのに、いつの間にか誰もが悠真を取り囲み、質問攻めにしている。
「デザインはどちらの学校で?」「ミラノでのご経験は?」「ご自分のアトリエはお持ちですの?」
悠真は一つ一つの質問に落ち着き払って答え、時折こちらに視線を向けては、その場にいた女性たちが皆、羨望のため息を漏らすような、愛情のこもった眼差しを私に送った。
シャネルの女性が、感心したように言う。
「柚希ったら、今回の帰国で、本当に私たちを驚かせてくれたわね」
その言葉には、チクリと棘が隠されていた。
「人は、前に進まなきゃいけないものでしょう?」
私の返事は短かったが、自分の意思を示すには十分だった。
このまま何事もなく夜が過ぎるかもしれない、と私が思い始めた矢先、どうやら池田花子がショータイムを始めたがっているらしかった。
彼女は突然、大塚健のほうへか弱く寄りかかり、綿菓子のように甘ったるい声を出した。
「健さん、私、ちょっと疲れちゃった……」
大塚健は即座に保護者のような顔つきになる。
「どうした、花子。今日の撮影、そんなにきつかったか?」
「昨日の夜の撮影が少し長引いちゃって。でも、大丈夫」池田花子は健気さを装って微笑んだ。「後で車で少し眠るから」
その笑顔には見覚えがありすぎた。かつては、私の専売特許だった表情だ。他の女の顔にそれを見るのは、まるで自分のサインを盗まれたような不快な気分だった。
「早く食べて、家まで送ってやるから。ゆっくり休め」
大塚健の口調は、付き合い始めた頃を思い出させるほど優しかった。
周りが囃し立て始める。
「健って、本当に優しい!」
「こんな綺麗な彼女なんだから、大事にしなくちゃね!」
池田花子は、さも恥ずかしそうに大塚健の肩に顔をうずめたが、その動きはあまりに手慣れていて、まるで何度もリハーサルを重ねたかのようだった。
何人かが、私の反応をこっそり窺っている。私が動揺を見せる瞬間を、今か今かと待っているのが分かった。
大塚健がかつて私に見せたのと同じ優しさで池田花子に接するのを見るのは、私たちの関係の安っぽいコピーを見せられているようで、吐き気がした。彼が今、慈しんでいる女は、結局のところ、まだ私の影をなぞっているに過ぎないのだ。
私は、本当にそんなに簡単に取って代わられるような、陳腐な存在だったのだろうか。
しかし、そんな感情を顔に出すわけにはいかない。優雅さこそが私の最高の武器であり、冷静沈着さこそが私の最強の盾なのだから。
メニューが運ばれてきた時、これでようやく気まずい雰囲気から抜け出せるかと思ったが、それも甘い考えだった。
カルティエの時計をした男、藤井隆が、私にメニューを押しやった。
「谷口さん、選んでくれよ。この中じゃ君が一番舌が肥えてるんだからさ」
私は丁寧に断った。
「あいにく、このお店はあまり詳しくないの。皆様、ご自由に注文なさって。今夜は私のおごりです」
すると、大塚健が何気ない口調で言った。
「ここは会員制のクラブなんだ。俺のツケにしておくよ」
まるで些細なことでも話すかのような、その飄々とした口調。彼はいつもこうだった。自分の影響力と富を、さりげなく誇示するように。
「じゃあ、ご馳走さま。次は私がご馳走するわね」
私は完璧な笑顔を保ったまま、そう返した。
悠真はメニューを手に取り、そっと私の耳元に顔を寄せた。
「柚希、ここのトリュフリゾットは美味しいかい?」
その親密な仕草に、再び皆の視線が一斉に私たちに集まった。
「ええ、絶品よ。試してみる?」
私はわざとその親密な距離を保ったまま答えた。
「じゃあ、それにしようかな」
彼はメニューを指さしながら、私の手にそっと触れた。
シャネルの女性が、たまらずといった様子で尋ねる。
「悠真さんって、柚希より少し年下? お二人、すごくお似合いでラブラブね」
「二つ下です」私はあっさりと認めた。「年齢なんて、問題になったことは一度もありませんから」
女友達は年下の男性と付き合う利点についてきゃいきゃいと喋り始め、会話の焦点は完全に移った。悠真は、私の意図を完璧に汲み取ってくれている。
場の雰囲気がどうにか落ち着いてきたかと思った矢先、この夜の本当の意地の悪さが、その姿を現した。
テーブルの男性陣のほうから、低いひそひそ話が聞こえてくる。
「演技のために雇われたんだろ?」
「間違いないな。大塚を挑発するためだけの……」
「新しい恋人ができたのかと思えば、全部見せかけか」
「徹底して体面を保つためのプロジェクト、ってわけだ」
囁き声は小さかったが、この個室では、それでもはっきりと私の耳に届いた。顔がカッと熱くなるのを感じる。恥ずかしさからではない。純粋な怒りからだった。
自分たちは聡明で、私には聞こえていないとでも思っているのだろう。そのしたり顔が目に浮かぶようだ。
だが、私が最も腹立たしかったのは、彼らの悪意ではなかった。その一部が、紛れもない事実だったことだ。
悠真は確かに、少なくとも伝統的な意味では、私の本当の恋人ではない。私は確かに演技をしていて、確かに体面を保とうとしている。
でも、それが何だというの?
悠真に視線を送ると、彼もその言葉を聞いていたようだったが、ただ優しく私の手を撫で、慰めるような眼差しをくれただけだった。
その瞬間、ふと思った。真実も嘘も、もはやどうでもいいのかもしれない。重要なのは、誰にも――自分自身にさえも――私を見下させはしないということだ。私は背筋を伸ばし、姿勢を正した。彼らがショーを望むなら、とびきり上等のものを見せてやろう。
藤井隆は、自分の囁きだけでは物足りないと思ったらしい。彼はワインを一口呷り、咳払いを一つすると、手首をひらりと動かしてカルティエの時計をきらめかせた。
「谷口さん、最近は随分とご多忙だったらしいじゃないか」
彼は、悠真と私の間を獲物を品定めするように楽しげな目で行き来させながら、もったいぶった口調で言った。
「年下の男が好みだったとは、知らなかったな」
大塚健は私たちの斜め向かいでふんぞり返っていた。かつては魅力的だと思っていたあの薄笑いが、今では胃がむかつくほど不快だった。彼は悠真に、注文と違うコーヒーを持ってきたインターンに向けるような、見下した一瞥を送っている。
池田花子は大塚健に寄りかかり、誰もが聞こえるように絶妙に声をひそめた。
「健さんも、年上好きだったりする?」
その声は、賞味期限切れのマカロンのようにねっとりと甘く、子供の頃にパリで食中毒になった時の記憶を蘇らせた。
大塚健は、わざとらしいほど正確にフォークを置く。
「俺は昔から、もっと伝統的なんだ。自分の役割をわきまえている女性の方が、うまくいくことが多い」
ワイングラスを握る手に、ぐっと力が入った。自分の役割? この男の厚かましさは、留まるところを知らないらしい。彼がジュニアエディターから先に進めず、キャリアの壁にぶつかって悩んでいた時、誰がそばで励まし続けたのか、すっかり忘れてしまったようだ。
悠真はそれまで、まるで国家機密でも記されているかのようにメニューを熟読していたが、今、あの気さくな温かみをたたえて顔を上げた。
「あの、失礼ですが」彼は藤井隆を指さした。「オイスターのスープを試されてはいかがです? 今夜は少し、お疲れのようにお見受けしますので」
藤井隆は、ぱちぱちと瞬きをした。
「……なんだと?」









