番外編2

 盤上の駒だと思っていた。

 だがいつの間にか、私は駒を動かすプレイヤーになっていた。

 東京の都心に、こんな場所があったのかと息を呑むような、静謐な屋敷の庭。夏の微風をはらみ、軒下の風鈴が、ちりん、と涼やかな音を立てるのを、私はただぼんやりと眺めていた。

 この庭の主が、上等な玉露を、私のためだけに淹れてくれている。

「ようやく、こうして正式にお会いできましたね、吉川さん」

 男は微笑みながら、青磁の湯呑みを私の前へと差し出した。

「それとも、『嵐風』と、お呼びすべきでしょうか」

 渡辺直哉、四十七歳。日本の金融界に、その名を轟かせる伝説の男。

 彼の資産は、太平洋の島国一...

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