第12章 無能

彼に半ば抱きかかえられるようにしていたのは、やはり佐久本令朝だった。

彼女の長い髪は少し乱れ、白と黒のコントラストがはっきりした瞳の奥に、わずかな驚きと気まずさが浮かんでいる。

長谷川寂は舌打ちした。「夜更けに寝もしないで、こんな所へ何しに来た?」

長谷川寂は彼女を放し、怪我をさせていないことを確認すると、内心ほっと息をついた。「佐久本令朝、お前が事件捜査に関わるのはこれが初めてじゃないはずだ。以前、市警で誰に守られていたか知らんが、俺のところでは、命令なしに勝手に現場へ来ることは許さん」

「今日ここに来たのが俺だったからいいものの、もし犯人だったらどうする。敵うわけないだろうが。まさ...

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