第38章 旦那

とろりとした甘みが味蕾の上で弾けた。

佐久本令朝は彼に向かってにこりと笑う。

夏川江樹はそっと壁に寄りかかり、僅かに伏せた目に店の照明が落ちて、まるで精緻に彫り上げられた一枚の絵画のようだ。

彼は定義しがたい男だった。水墨画のような洒脱な風骨を持ちながら、油絵のような奔放な明るさも兼ね備えている。

彼は頭を垂れ、彼女を見つめていた。「俺の店に寄ってかないか」

悪魔の餌のようだ。

佐久本令朝はゆっくりと顔を上げた。彼女は実に美しい目をしている。見上げる時、目尻が跳ね上がり、冷たさがいくらか薄れ、暖色の照明が彼女を幾分か柔和に見せていた。

視線が交錯する。

長谷川寂が入ってきた時、...

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