第54章 調整

葉山明遠の目にあったのは驚きではなく、恐怖だった。

どうやら、彼は知っているらしい。

彼は自嘲気味に笑った。「分かってますよ。でも、どうしろって言うんです。俺たちには金も、警察に通報する力もなかった。男たちは、林田尽染が誘惑してきたって言うに決まってる」

「そうなれば、彼女の評判も地に落ちる」

「だから彼女は、通報しないと決めたんです」

葉山明遠が言った『彼女』とは、林田尽染のことだ。

林田尽染は通報しないことを選んだ。

しかし、林田尽染はすでに死んでいる。彼女がその言葉を口にしたかどうか、今となっては確かめようがない。

葉山明遠の顔色を窺いながら、長谷川寂は投げや...

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