第56章 娘

その言葉に、長谷川寂と佐久本令朝は同じように冷静な表情を浮かべた。

長谷川寂の笑みは、目の奥までは届いていない。「葉山さん、まずは少し落ち着いてください」

「もちろん、我々もそろそろ失礼します」

葉山明遠はあからさまにほっとした様子だった。

家を出たばかりのところで、佐久本令朝がふと振り返り、尋ねた。「葉山さん、奥様と初めてお会いした時のことを覚えていらっしゃいますか?」

葉山明遠は一瞬きょとんとし、懐かしむように目の底に優しさを滲ませた。「彼女は真っ赤なドレスを着ていて、まるで太陽の炎のようでした。眩しくて直視もできないほどで……一緒に一度、ダンスを踊ったんです」

「そ...

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