第6章 長谷川寂は経を離れ道に叛く

石田雯の両親は何を思ったのか、突然悲しみを抑えきれなくなり、声を上げて泣き出してしまった。

長谷川寂の深い眼差しが、佐久本令朝の姿をゆっくりと掠める。

法医学者だというのに、人心を窺うことにも長けている。

被害者遺族との連絡を担当したのは、れっきとした尋問のプロだ。しかし、佐久本令朝の前では、どこか物足りなさを感じさせた。

石田の父と母が泣き続けている。佐久本令朝は一瞬ためらった後、口を開いた。

「石田雯さんは生前、性的暴行を受けた経験が、あるいは……」

石田の母の手から水杯が滑り落ち、冷たい水が床にこぼれた。彼女は怯えたように佐久本令朝を見つめる。

「な、なんでそれを……?」

「同僚の話では、彼女はずっと真面目ないい子だったそうですね。ですが、彼女の身体はそうではないと語っていました」

「彼女の身体には、軽度の自傷行為の痕跡がありました。傷は小さいですが、長期間にわたって続いたものです」

「一人の女性が自傷行為に走る原因は、生まれ育った家庭か、後天的な心の傷、突発的な事故かのいずれかです」

「ですから、ただの推測ですよ」

石田の父と母は同時にうなだれ、唇を微かに震わせた。

佐久本令朝はそれ以上彼らを追い詰めることなく、静かに待った。

しばらくして、二人は重いため息をつき、後悔の念に苛まれていた。

「三ヶ月前、雯が友人と一緒にバーから帰ってきてから、様子がおかしくなってしまって。家で問い詰めたら、バーで男に暴行されたと……」

菅原凱捷は瞬きをし、訝しげに言った。

「俺たちもその線で捜査したんですけど、何も……」

石田の父は顔を覆い、くぐもった声を出した。そして、思い切り自分の頬を張り飛ばした。

「全部俺のせいだ!」

「娘がこんなに苦しむと分かっていたら、すぐにでも包丁を持ってレイプ犯の家に乗り込んでやったのに!」

菅原凱捷は傍らでため息をつき、言った。

「石田雯さんの親友の話では、彼女はあの時期ずっとカウンセリングに通っていたそうです。なんとか立ち直ろうと、過去と決別しようと努力していた、と」

石田の父と母は嗚咽を漏らした。

佐久本令朝は深呼吸をし、視線を池田倩の母親に向けた。

彼女は一人、静かに隅に座り、その眼差しは死んだように色を失い、光のかけらもなかった。

佐久本令朝は穏やかな声で尋ねた。

「おばさん、池田倩さんのことをお伺いしたいのですが」

池田の母の視線が揺らぎ、ゆっくりと瞼を上げて佐久本令朝の方を見た。唇がもごもごと動く。

「あの子の父親と離婚した後、池田倩は私が引き取りました。私が再婚してから、池田倩は……あの子は、家に帰りたがらなくなって……」

佐久本令朝は重々しく問う。

「なぜですか?」

その時、長谷川寂が口を開いた。

「強姦、家暴」

たった四文字の言葉が、重い槌のように池田の母の心臓を打ち据えた。

池田の母は突然感情を爆発させ、勢いよく立ち上がった。その眼は真っ赤に充血している。

「再婚したのはあの子のためでもあるのよ! 私一人でどうやって育てろって言うの?」

「一回寝ただけじゃない! 一、二回殴られただけじゃないの! なんで私と縁を切ったりするのよ!」

「どうしてよ! 私が育ててやったのよ、大変だったんだから……」

佐久本令朝は眉をひそめた。

池田の母の状態は少しおかしい。狂乱している。

佐久本令朝が口を開こうとしたその時、長谷川寂が割って入った。

「自分の継父に暴行されるのが、些細なことだと? 言わせてもらえば、彼女がその継父を殺したとしても、何の過ちもない」

佐久本令朝は目を丸くし、信じられないといった様子で長谷川寂を見た。

長い髪が彼の目を隠し、薄い唇は固く結ばれている。その全身から、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。

彼は警察官でありながら、よくもまあ、こんな常軌を逸したことが言えたものだ。

菅原凱捷は目の前が真っ暗になり、慌てて駆け寄って長谷川寂の口を塞いだ!

菅原凱捷は声を潜めて言う。

「おい、ご先祖様、何てこと言うんだよ!」

菅原凱捷は以前、長谷川寂と事件で組んだことがある。彼の家は警察一家で、警察内でも名声が高く、特別捜査班の中で長谷川寂に時折口答えできるのは彼くらいのものだった。

菅原凱捷は傍らの警官に目配せする。

すぐに遺族たちは応接室から連れ出された。

応接室は死のような静寂に包まれた。

パシン、という音と共に、長谷川寂が菅原凱捷の手を振り払う。

菅原凱捷は気まずそうに笑い、ぶつぶつと呟いた。

「この人たちは生まれ育った家庭にしろ、社会に出てからの生活にしろ、恵まれていなかった。それが殺される理由になるってのか?」

佐久本令朝はふっと軽く笑い、冷ややかな声で言った。

「それは殺される理由ではありません。彼女たちが犯人と出会うための、導火線です」

「犯人が彼女たちを殺した本当の理由は、彼女たちのどこかしらの部分が、立川婉と似ていたからです」

菅原凱捷は立川婉の存在をすっかり忘れており、途端に頭がごちゃごちゃになったように感じた。

「じゃあ、その立川婉も殺してるってのは、どう説明するんだ?」

長谷川寂はちらりと視線を上げ、不意に口を開いた。

「もし俺が犯人なら……」

佐久本令朝は驚いて彼を見た。

長谷川寂は自分の世界に沈んでいるかのように、低く、ゆっくりとした声で続ける。

「汚い地獄からようやく這い出して、好きになった心優しい娘がいた。だが、その娘は俺の特殊な性癖のせいで死んでしまった。なら、俺が唯一やりたいことは、もう一度彼女を『作り上げる』ことだ」

「彼女がまだ生きていることにしておく」

「たとえただの抜け殻が隣に横たわっているだけでも、そいつが立川婉なんだと自分を納得させられる」

「歪で、狂気じみた独占欲だ」

言い終えた長谷川寂は、鋭い視線が自分に注がれているのを感じ、ふと両手を広げた。その笑みには、どこか邪悪な響きがあった。

「ただの独り言だ」

佐久本令朝はそっと唇を結んだ。独り言、だろうか。彼は完全に自分を犯人の立場に置き、完璧に共感していた。

犯罪者に共感できる人間はそうはいない。それは非常に危険な状態だ。

佐久本令朝は唐突に尋ねた。

「長谷川隊長、人を殺したことはありますか?」

長谷川寂は目を細めて彼女を見つめ、ゆっくりと身を屈めた。囁くような声が彼女の耳元に落ちる。

「いつでも試してみるといい、佐久本先生」

佐久本令朝は体をのけぞらせて彼との距離を取り、容赦なく言い放った。

「長谷川隊長、ちょうど私も生きた人間を解剖したことがないので、試してみたいです」

菅原凱捷は「……」となった。

彼はしばらく黙り、こちらを見、あちらを見て、二人に注意を促す。

「俺たちは今、事件の話をしてるんだぞ」

なぜこの二人はこうも常にいがみ合っているのか。

菅原凱捷は顎をさすり、少し困ったように言った。

「てことは、犯人はまだ何人も殺すつもりってことか? けど、依然として犯人がどうやって彼女たちと知り合ったのかが分からない」

四人の被害者のタイムラインは、すべて洗いざらい調べたが、不審な点は何もなかった。

長谷川寂は佐久本令朝から視線を外し、立ち上がると冷たく言った。

「雁が過ぎれば声を残し、人が過ぎれば名を残す。見落としがあるはずだ。例えば、遠山桐妤の夫が連絡を取っていたという、男の浮気相手とかな」

「佐久本令朝、あんたはどう思う?」

突然話を振られ、彼女は淡々と答えた。

「ですが私はただの法医学者です。遺体から得られる手がかりはすべてお渡ししました。残りは、あなた方が調べるべきことでしょう」

そう言って、佐久本令朝は俯き、物思いにふけった。

長谷川寂はずっと彼女を凝視していた。

だが、まさか佐久本令朝が不意にこちらを見るとは思わず、彼は珍しく慌てて視線を逸らした。

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