第63章 成約

「面汚しが」

林田尽染の家を出て車に乗ると、佐久本令朝は長谷川寂がそう罵るのを聞いた。

長谷川寂がここまで直截的かつ怒りを込めて罵声を浴びせるのは初めてのことだった。

佐久本令朝は車のドアの外に立ち、怒れる男を見つめて一瞬呆然とし、言った。「長谷川隊長、私も車で来ていますので、今日は送っていただかなくて結構です」

長谷川寂は頷いた。

佐久本令朝は警察署へ戻って花の鑑定を、長谷川寂は茶葉の調査へと向かった。

本場の黄山毛峰は高価であり、調査はそう難しくないはずだ。

一方、佐久本令朝は調査に没頭し、一分一秒と時間が過ぎていく中で、自分が誰かと会う約束をしていたことを完全に忘れていた。...

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