第64章 定額制

佐久本令朝は早足で来た道を引き返しながら、スマートフォンを手に夏川江樹へメッセージを送った。

こんなに遅い時間だ。夏川江樹ももう待ってはいないだろう、と彼女は思った。

【ごめんなさい、職場で急用ができてしまって、連絡もできずにいました。今どこにいますか?】

夏川江樹からは即座に返信があった。ボイスメッセージで、澄んだ潤いのある声が流れる。「急がなくていいですよ。お店の前で待っていますから、ゆっくり来てください」

佐久本令朝は、少し複雑な心境になった。

なぜかはわからない。けれど、夏川江樹はきっとその場で待っているだろうと、彼女はそう感じていた。

身じろぎもせずに。

「春探し」に近...

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