第10章 反撃
スマートフォンに映る写真を見つめる藤原炎一の顔は、暗い影に覆われていた。
「誰が許可した?」
田中努は頭を下げながら「お母様が社長のご承諾を得たとおっしゃって、広報部は確認を取れませんでした…」
言葉が終わらないうちに、藤原炎一は怒りに任せて机の上の置物を払い落とした。大きな音に、田中は思わず一歩後ずさった。
「すぐにトレンドを削除させろ。広報部は社内規定に重大な違反をした。全員クビだ!」
藤原炎一の低い声には、拒否を許さない鋭い威圧感が漂っていた。田中は頷いて急いで部屋を出た。
しかし、すぐに戻ってきた田中の表情は焦りに満ちていた。
「藤原社長、イーグルエンタテインメントの土屋社長から、その投稿を24時間維持するよう指示が出ているそうです。削除できません!」
イーグルエンタテインメントは国内最大手のエンターテインメント企業で、傘下のプラットフォームには実力者が揃っている。業界での影響力は絶大で、彼らの意向に逆らえるプラットフォームはない。
藤原炎一の表情は一層険しくなり、指で机を叩きながら怒りを含んだ笑みを浮かべた。
なるほど、よくやった。鈴木直美がイーグルエンタテインメントを動かせるほどの力を持っているとは知らなかった。藤原家が彼女に泥を塗れば、同じように泥を返してくる。結果など気にもしていない。
不倫と窃盗か。まさに同じ穢れた評判だな。
スマートフォンが「ピコン」と鳴り、田中は慌てて画面を確認すると、顔色が変わった。
「社長…」
藤原炎一が視線を向けると、田中は急いでスマートフォンを差し出した。鈴木直美のアカウントが新たな投稿を公開していた。
——藤原炎一さんにお知らせします。例の「迷夢」ネックレスは調査の結果、貴方の妹君が所持していることが判明しました。結婚三年間、私は藤原家の財産に一切手を触れていません。私への中傷と誹謗に対しては、法的措置を取らせていただきます。ご承知おきください。
投稿には一枚の写真が添付されており、そこには藤原千子がそのネックレスを着けてカジノテーブルで楽しそうに遊ぶ姿が写っていた。
投稿からわずか5分で、リポストは1万件を超え、藤原家の権力を笠に着た前妻への誹謗中傷という話題がトレンド1位に躍り出た。
藤原炎一はその投稿を見つめながら、顔を曇らせた。
何のつもりだ。まさか自分の指示だと思っているのか?それに藤原家の財産に手を触れていないとはどういう意味だ?3年前に限度額なしのカードを渡したはずだ。毎月かなりの使用履歴があったはずだ。母も度々、彼女の浪費ぶりを指摘していたのに。
もし彼女が金を使っていなかったとすれば、誰があのカードを使っていたのか?
この瞬間、怒りよりも疑問が膨らんでいた。しばらく考え込んだ後、田中の方を向いた。
「一つ調べてもらいたいことがある」
田中は頷いて、すぐに部屋を出て行った。
鈴木邸では、鈴木直美が朝食を取りながら、一晩で世論が一変し、藤原家への非難で溢れかえっているのを見て、心の中で快哉を叫んでいた。
彼女の名誉を傷つけようとしたなら、正面から戦って、誰の評判が地に落ちるか見てみようじゃないか!
鈴木直美は口ずさみながら、たっぷりのお粥を平らげた。傍らの鈴木隆史は、眉を上げて感心したように妹を見つめていた。
「このやり方、なかなか手厳しいな」
先ほど確認したところ、藤原グループの株価が一気に10ポイント下落した。ストップ安がかからなければ、さらに下がっていただろう。
妹がこれほどの手腕を持っているとは思わなかった。
「ふん、私をなめるなんて、兄さんが誰だか分かってないのよ!」
鈴木直美は得意げに言った。西新宿の新進気鋭、鈴木隆史は鈴木家の事業を引き継いでから、誰もが舌を巻く存在となっている。その妹として、面目を潰すわけにはいかない!
鈴木直美の媚びるような態度に、鈴木隆史は苦笑しながら首を振った。
「さあ、そろそろレッスンの準備をしないとな」
