第3章 暴く

橋本優子は包帯を隠しきれず、鈴木直美に引き剥がされてしまった。

包帯の下には血まみれの傷跡などなく、橋本優子の脚には擦り傷の赤い痕が一つあるだけだった。

藤原炎一はその場に立ち尽くし、表情が暗くなっていった。

鈴木直美は案の定という表情を浮かべ、嘲笑うように言った。「橋本さんの怪我、本当に深刻ですねぇ。皮膚も破れてないのに大出血って。もう少し遅かったら、この赤い跡も消えちゃってたかもね!」

彼女の言葉には皮肉が込められており、藤原炎一の表情はさらに険しくなり、冷たい目つきで橋本優子を見つめた。

藤原炎一の視線に気付いた橋本優子は、明らかに動揺し始めた。「炎一、違うの。私...前回の怪我がまだ治ってなくて、だから...」

藤原炎一は彼女の言葉を無視し、傍らの担当医を見つめ、怒りを含んだ瞳で問いただした。「どういうことだ!」

この病院は藤原財閥の施設だからこそ、橋本優子をここに入院させることにしたのだ。医師の言葉も全面的に信頼していた。だが今、彼は疑念を抱き始めていた。

傷もなく出血もないのに、医師は大出血で輸血が必要だと言った。

これまで気にも留めていなかった状況も、もしかしたらこんな風に、鈴木直美から理由もなく献血させられていたのではないか。

鈴木直美が献血後に青ざめて弱っていた姿を思い出し、胸の中の違和感は強まるばかり。目に宿る冷気は増し、周囲の空気は恐ろしいほど重くなっていった。

医師は藤原炎一をおびえながら見つめていた。藤原炎一の怒りは並大抵のものではない。すぐさますべてを白状した。

「藤原社長!私じゃありません。橋本さんが、許可を得ていると...レアな血液型は希少だから、できるだけ血液バンクに保管しておくようにと...」

医師は言葉を最後まで言い切れず、藤原炎一の険しい表情に恐れをなして黙り込んだ。藤原炎一は怒りの目を橋本優子に向けた。

甘やかしすぎていたのだ。まさか自分の目の前でこんなことをするとは。

橋本優子は身震いし、おずおずと這いよって藤原炎一のズボンの裾を掴んだ。「炎一、わざとじゃないの。ただ、もしもの時のために血液を貯めておこうと思って...」

言葉が終わらないうちに、藤原炎一は一歩後ずさり、橋本優子との距離を置いた。その目は冷たかった。

橋本優子は彼の冷淡な様子を見て、唇を噛みながら泣き出した。「勇くんがいたら、こんなつらい思いなんてさせなかったはずよ!」

秋月勇の名前に、藤原炎一の心が揺れた。秋月勇は藤原炎一の元自衛隊時代の戦友で、任務中の事故で亡くなる際、橋本優子を藤原炎一に託したのだった。

これまでなら、橋本優子が秋月勇の名を出せば、より一層の愛情と世話を向けたはずだった。だが今は、眉をひそめて橋本優子を見つめ、冷たい声で言った。

「秋月がまだ生きていたら、お前のこんな行為を恥じるだろう!」

この言葉に泣いていた橋本優子は急に動きを止めた。どうしたの?秋月勇の名前を出しても効果がないなんて。

鈴木直美は腕を組んで二人を見つめ、藤原炎一の冷たい表情など気にも留めなかった。

これまで何度も、橋本優子が泣き喚けば藤原炎一の怒りは消えていった。彼女はもう藤原炎一に期待など持っていなかった。

二人の芝居を見るのにも飽き、冷笑して立ち去ろうとした。

数歩進んだところで、鈴木直美は振り返り、橋本優子の前まで歩み寄ると、ずっと持っていた写真を取り出した。

「離婚したんだから、これらを返すわ。橋本優子、もっと激しく泣いてみたら?もしかしたら彼は新しい移動献血者を見つけてくれるかもよ!」

彼女は写真を橋本優子に投げつけ、病室を後にした。藤原炎一など一瞥もせずに。

床に散らばった写真を藤原炎一は見下ろした。そこには、彼と橋本優子が寄り添う姿が写っていた。

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