第7章 彼女はどこ
電話を切ると、藤原晴子は得意げに鈴木直美を見つめた。
「待ってなさいよ。炎一がすぐ戻ってくるわ。どんな目に遭わされるか、よく見ておきなさい!」
鈴木直美は藤原炎一が本当に戻ってくるとは思わなかった。深江ゆきと目を合わせる。
二人は買い物のふりをして抜け出してきたのだ。鈴木家は彼女たちが藤原家に来ていることを知らない。ここで藤原炎一に会えば、きっと長引くことになる。藤原家に来ていたことがお父さんやお兄さんたちにバレでもしたら、鈴木直美は間違いなく説教されることになる。
マンションは会社から近い。藤原炎一はいつ戻ってきてもおかしくない。鈴木直美はこれ以上時間を無駄にしたくなかった。階段を上がり、部屋から自分の物を取りに行く。
藤原晴子は彼女が上がっていくのを見て止めようとしたが、深江ゆきが一歩前に出て、藤原晴子の前に立ちはだかった。軽蔑的な眼差しを向けられ、藤原晴子は怒りに任せて指を突きつける。
部屋の中は何も動かされていなかった。鈴木直美の持ち物は哀れなほど少なかった。
この部屋は元々藤原炎一が結婚のために買った新居だった。でも結婚初日以外、藤原炎一が戻ってきた回数は片手で数えられるほど。生活費として渡されたカードも一度も使わなかった。というより、藤原晴子が使わせなかったのだ。一度でも使おうものなら、様々な理由をつけては彼女を責め立て、拝金主義だと罵った。
身分がバレるのを恐れて、新しい服さえ買えなかった。持ってきた二着だけ。一着はもう着られないほど古くなって先日捨てた。残りの一着は鈴木家に戻った時に既に着替えていた。
そして、これらのことを藤原炎一は一度も気にかけたことがなかった。
鈴木直美は苦笑いを浮かべながら、引き出しから証明書を取り出し、階段を下りた。
深江ゆきと藤原晴子はまだ対峙していた。鈴木直美が荷物を持って戻ってくるのを見ると、もう藤原晴子と口論する気も失せ、白眼を向けた。
二人は藤原晴子を完全に無視して、そのまま玄関を出た。
半死半生の怒りに震える藤原晴子は、二人の背中に向かって罵声を浴びせかけ、止めようとしたが、鈴木直美の凶悪な眼差しに触れると、顔がヒリヒリと痛み、前に出る勇気を失った。
二人が去っていくのを見て、藤原晴子は怒りが込み上げ、急いで階段を上がり、鈴木直美が何を持ち出したのか確認しに行った。
一方、藤原炎一もマンションに到着していた。
彼が玄関に入るなり、藤原晴子は泣きながら駆け寄ってきた。
「炎一、やっと帰ってきたのね!あの貧乏な嫁を見てよ、お母さんを殴ったのよ!」
藤原晴子は鈴木直美に殴られた顔を見せた。鈴木直美は手加減をしなかったため、片方の頬が腫れ上がっていた。
藤原炎一は母親の頬の平手痕を見て、表情を曇らせながら尋ねた。
「彼女はどこだ?」
「それを聞いたら腹が立つわ!炎一、あなたの金庫にあった『迷夢』のネックレスが無くなったのよ!絶対にあの女が盗んだに違いないわ!」
藤原晴子は唾を吐くように言い、憎々しげに続けた。
「やっぱりあの女があなたと結婚したのは、うちの財産が目当てだったのよ!離婚だなんて言っても、あんな拝金主義の女が離婚なんかするはずないわ!」
藤原炎一は母親が殴られたことで怒りを感じていたが、母親の言葉を聞いて眉をひそめた。
母親はいつからこんなに刻薄になったのだろう。
彼は深いため息をつき、「私たちは確かに離婚した」と言った。
二人が本当に離婚したと聞いて、藤原晴子は喜び始めた。
「よかった!やっとあのあばずれが出て行ったわ!」
すぐに彼女は不安そうな表情を浮かべた。
「たくさんのお金を要求されたんじゃないでしょうね?だめよ、それは藤原家の財産なのよ!警察に通報しなきゃ!」
藤原晴子が携帯電話を取り出して警察に通報しようとしたが、藤原炎一は彼女の携帯を取り上げ、冷たい眼差しで尋ねた。
「彼女はどこだ?」
彼は二度と同じことを言うのを好まなかった。彼の不機嫌な様子を見て、藤原晴子は急いで答えた。
「上の階に行って荷物を取って出て行ったわ。あのネックレスは二億円以上するのよ。炎一、あのあばずれから取り返さなきゃだめよ。あんな女に得をさせちゃいけないわ!」
母親が何度も「あばずれ」と言い、鈴木直美を全く家族として扱っていない様子を見て、藤原炎一の胸の中の違和感はさらに強くなった。
