第9章 中傷
鈴木直美が電話に出ると、深江ゆきの怒り狂った声が飛び込んできた。
「直美ちゃん!藤原家のあの薄情者、よくもあなたのことを中傷したわね!腹が立って仕方がないわ!」
鈴木直美は訳が分からず、慌ててパソコンを開いてトレンドを確認すると、「#藤原家名家の元妻、窃盗により離縁」が一位に躍り出ていた。
トレンドを開くと、藤原グループの公式アカウントによる声明文が目に入った。直美は一瞥して、自分が金目当てで不正な手段を使って藤原炎一と結婚し、窃盗により離婚、藤原家から追放されたという内容だと分かった。
スクロールすると、コメント欄には例外なく自分への罵詈雑言が並び、目を覆いたくなるような内容ばかりだった。
「ふん、藤原炎一、よくやるわね」
鈴木直美は歯ぎしりしながら、藤原炎一がこんな理不尽な中傷をするとは思わなかった。あの三年間は、まさに犬に餌をやるようなものだったと。
「今すぐトレンドから消すように手配するわ!」電話の向こうで深江ゆきが動き出そうとしたが、直美に制止された。
「ちょっと待って、ゆきちゃん。これは私に任せて」
「でも...」深江ゆきは躊躇った。
「大丈夫、信じて」
鈴木直美は目を潜めると、電話を切って即座に鈴木隆史のもとへ向かった。
鈴木隆史は仕事を終えたところで、トレンドの内容も確認していた。広報部門に連絡しようとした矢先、ドアがノックされた。
「隆史兄ちゃん」鈴木直美が入ってくると、彼の表情の重さから既にトレンドの件を把握していることが分かった。
「これがお前の言っていた良い男か!」鈴木隆史は低く怒りを含んだ声で言った。大切な妹が藤原家で三年もの辛い思いをし、今度はこんな濡れ衣まで着せられて、最悪の気分だった。
兄の怒りを察した直美は、すぐに水を注いで差し出した。「落ち着いて。対処法があるの」
鈴木隆史が眉をひそめて妹を見つめると、彼女はにやりと笑って、「悠人兄ちゃんのエンターテインメント会社、私の名義になってるでしょう?今誰が管理してるか知ってる?」
「土屋岩だな。連絡先は持ってるはずだ」鈴木隆史は一瞬黙った後、「どうするつもりだ?」
「まずは内密に。隆史兄ちゃんからお父さんと他のお兄ちゃんたちに伝えて、この件には手を出さないでって。私が招いた事だから、私に任せて」
もし最初から藤原炎一との結婚に固執していなければ、こんなことにはならなかったのだから。
鈴木直美の自信に満ちた様子に、鈴木隆史は疑わしげな目を向けた。
直美はさらに色々と言い聞かせ、ようやく鈴木家の人々が手を出さないことに同意させた。
彼女は熱を帯びていくトレンドを見つめながら、自分のアカウントにログインし、一枚の写真を投稿して安らかに眠りについた。
藤原炎一は数日間ろくに眠れていなかった。なぜか藤原家のあるプロジェクトが突然妨害を受け、数日かけて人脈を総動員してようやく事態を収拾したところだった。
休もうとした矢先、秘書の田中努が慌てて部屋に入ってきて、もごもごと話し始めた。
「はっきり言え」藤原炎一は額を押さえながら言った。あの日鈴木直美が藤原家を訪れて以来、姿を消してしまい、どれだけ探しても見つからず、今はイライラが頂点に達していた。
田中努はようやく急いで話し出した。
「大変です!お母様が広報部を使って当社のアカウントから元奥様に関する投稿をされまして、今やネット上で大騒ぎになっています!」
藤原炎一が眉をひそめ、携帯を取り出そうとした時、田中努は苦い表情で続けた。
「元奥様も投稿を出され、社長もトレンド入りしてしまいました。当社の株価も本日の寄り付きから明らかな下落を...」
藤原炎一は一瞬固まり、丁度その時携帯にトレンドの通知が入った。二つのトピックが爆発的な話題を呼んでいた。
一つは鈴木直美の窃盗に関するもの、もう一つは藤原グループ社長の不倫疑惑で、開いてみると、橋本優子と寄り添う写真が表示された。
あの写真は、病室で見たものだった。
