第1章
黒いシルクのドレスの裾を最後にもう一度撫でつけ、深呼吸を一つした。清浜ギャラリーの、床から天井まで届く大きな窓ガラス越しに、スポットライトの暖かい光が私の絵を照らし出しているのが見えた――三年にわたる努力が、ついに正当な評価を得るのだ。
胸が高鳴っていた。緊張のせいだけじゃない。期待のせいでもあった。
恵介はエントランスで私を待っているはずだった。この瞬間を、私たちは何週間も前から計画していたのだ。二人で一緒に入場し、彼が私の腰にそっと手を回し、何もかもを変えてくれるかもしれないコレクターや批評家たちに私を紹介してくれる、と。それなのに今、私はガラスのドアの前で立ち尽くし、人混みの向こうにいる彼を目で追っていた。
彼は、見も知らぬ見事な茶髪の女性と話し込んでいた。シャンパングラスの触れ合う音に重なって、彼女の笑い声が聞こえてくる。朗々として、自信に満ちた声。彼女はデザイナー物の赤いドレスをまとい、完璧に手入れされた指を、何気なく恵介の腕に置いていた。
私はドアを押し開けて中に入った。
ギャラリーは、キャリアを成功させることも破滅させることもできる、そんな独特のエネルギーでざわめいていた。『美術手帖』や『アートコレクターズ』で見たことのある顔、美術館の寄贈者芳名板に名を連ねるコレクターたち、そしてたった一言でアーティストを世に出すことも潰すこともできるギャラリーのオーナーたちの姿がそこにはあった。
「失礼、あなたが森野瑠奈さんですね」
振り返ると、この街で最も影響力のあるアート投資家の一人、黒石利彦がシャンパンのフルートグラスを片手にこちらへ歩いてくるところだった。
「黒石さん、はい。今夜はお越しいただき、本当にありがとうございます」私は手を差し出した。
「恵介くんから、あなたのことはよく伺っていますよ」と彼は言った。「彼はあなたのことを、とても……将来有望だと。大きなポテンシャルを秘めているとね」
「新しい絵画のシリーズを、ぜひご覧いただければと思います。今回の光のシリーズは、構想から完成まで二年近くかかった作品ですので」私は笑顔を崩さなかった。
「ああ、恵介くんがすべて見事にキュレーションしていることでしょう」黒石はギャラリーの中央、恵介が今や茶髪の女性と最も明るいスポットライトの下に立っている方へちらりと目を向けた。「彼は本当に……慈善活動に対する目利きですからね」
その言葉の裏にある意味を咀嚼する前に、ギャラリー中の注目が一斉に集まった。恵介がスピーチ用に設けた小さな壇上に上がり、あの茶髪の女性の腰を滑るような仕草で抱き寄せた。
「今夜はお集まりいただき、ありがとうございます」三年前、私が最初に惹かれたあの自信に満ちた魅力で、恵介の声が響いた。「ここで、非常に特別な人物をご紹介したいと思います。私のアーティスティック・パートナーであり、コラボレーターでもある、赤城紗江子さんです」
まばらな拍手が会場に広がった。赤城紗江子なんて名前、聞いたこともない。それよりも重要なのは、恵介が私以外にアーティスティック・パートナーがいるなんて、一度も口にしたことがなかったという事実だ。
「紗江子さんは、我々のキュレーションのビジョンに、ユニークな視点をもたらしてくれます」と恵介は続けた。「彼女の写真家としての経験は、今夜展示されている新進アーティストたちの作品に、新たな視覚的な物語性をもたらしてくれるのです」
「恵介さん」芸術雑誌の批評家である千葉真人が声を張った。「フィーチャーされているアーティストの一人と、個人的な関係にあると伺っていますが。プロとしての客観性はどのように保たれているのですか?」
私は恵介の顔を見つめた。彼が微笑んで、私の方を指さし、三年にわたる私たちの関係を誇らしげに認めてくれるのを待った。だが、彼の表情は気まずさと嫌悪感が入り混じったものに変わった。
「少し誤解があるようです」静まり返ったギャラリーに、彼の声がはっきりと響き渡った。「瑠奈さんは、単に導きを必要としていた人間です。彼女の作品を展示するのは、純粋に我々側からの慈善的な判断です。――ポテンシャルを……見せたアーティストを助けるための機会、と言いましょうか」
「正直なところ」恵介は、その夜初めて私をまっすぐに見て続けた。「彼女のようなレベルの人間と恋愛関係になるなんて、プロとしてはあり得ませんよ。私がここで築き上げてきたすべてを台無しにしてしまいますから」
部屋中の視線が、一斉に私に突き刺さるのを感じた。恵介の否定の言葉を物差しに、私の価値が値踏みされている。屈辱のあまり頬が燃えるように熱くなり、その場に立っていることすら辛くなった。
紗江子の完璧に手入れされた手が、彼の胸の上を滑った。「恵介さんは、いつも新進の才能に寛大なんです」彼女は言った。「彼のような方がいなければ、このような場所に立つ機会を得られないアーティストもいるのですから」
ひそひそ話の波がギャラリーに広がった。
息が詰まりそうだった。これ以上、屈辱が完璧なものになる前に、ここを去らなければと思った。
人混みをかき分け、裏口へと向かう。涙で視界が滲んでいた。背後では、恵介が紗江子の最新の写真シリーズを褒め称える声が聞こえた。その声は心からの賞賛に満ちた暖かい音色で――私の作品について語る時には、一度も聞いたことのない温かさだった。
レンガの壁に背をもたせかけ、私はようやく涙を流した。
震える手で、スマートフォンを取り出した。恵介から一件のメッセージ。「瑠奈、話がある。でも、今じゃない」
今じゃない。まるで私が、予定を組み直さなければならないアポイントメントか何かであるかのように。
筋肉の記憶に導かれるまま、指がインスタグラムを開いた。紗江子の最新の投稿は、すでにアップされていた。ギャラリーのオープニングで撮られた、完璧にフィルターのかかった写真。恵介が彼女の腰に腕を回し、二人ともギャラリーの照明の下で輝いている。キャプションにはこう書かれていた。「新進アーティストを支援するのは、とてもやりがいのあること! @清浜ギャラリー の慈善活動への取り組みの一端を担えることを光栄に思います。 #アートで社会貢献 #若手支援 #感謝」
言葉が滲んで一つになるまで、私はスクリーンを見つめ続けた。慈善活動。新進アーティスト。社会への還元。どの言葉も、私が恵介の対等なパートナーではなく、ましてや恋人でもなく、彼の「慈善案件」であるという地位を固めるために、慎重に選ばれていた。
