第144章 誘拐

谷口拓の顔がさっと曇り、張りつけていた笑みが今にも崩れそうになる。

「俺だって、そこまで非常識な真似はしない」

「それは、どうだろうね」

男は相変わらず平然としていた。けれど視線だけは、ずっと市川希美を捉えたままだ。

見られ続けるのが落ち着かず、市川希美は谷口拓へ助けを求めるように目を向ける。

「ここで揉めても仕方ないし……とりあえず、私の部屋の近くに部屋を借りて住んでもらって、怪我を治すのはどう?」

谷口拓は視線を引っ込め、どこか硬い口調で答えた。

「まあ……それでもいい」

男も異論はないらしく、のんびりと言う。

「それと、生活のことも考えてほしい。さっき医者も言ってただ...

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