第153章 命の恩人

市川希美の声は大きくない。けれど、一音一音がやけに鮮明だった。

夏川翔太はゆっくりと検査報告書を受け取り、ページをめくっていく。

最後まで読み終えた瞬間、口元が勝手に歪んだ。自嘲めいた、苦い笑み。

「……で? 俺を笑いに来たのか」

「違う。真実を伝えに来ただけ。それと――離婚のとき、私たち協議書にサインしたよね。伊藤沙梨の体調が回復したら、あなたはもう『返せ』なんて言う資格ない」

市川希美の顔には余計な表情がなかった。まるで、どうでもいい事務連絡でもするみたいに淡々としている。

夏川翔太の顔色が少し悪くなる。だが、結局なにも言い返せなかった。

その死人みたいな顔を見るのも面倒で...

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