第160章 共喰いだ!

谷口拓は、夏川翔太が嫌そうに顔をしかめるのを見るのが好きだった。だから二つ返事で引き受ける。

それから二時間も経たないうちに、市川希美が株を手放すらしい――そんな話は、知るべき人間の耳へあっという間に流れ込んだ。

当然、夏川翔太もその報せを掴んでいる。だが今の彼には、市川希美にちょっかいを出している暇などなかった。

地下駐車場。

夏川翔太は、目の前に立つ女を見て、思わず足を止めた。眉間が深く刻まれる。

伊藤沙梨。

――ただし、かつての「柔らかくて愛らしい伊藤沙梨」は、もうどこにもいない。

両手は白い包帯でぐるぐる巻きにされ、指の形すら曖昧だ。潰れた肉の塊みたいに腫れ上がっている...

ログインして続きを読む