第89章 疑いの種を蒔く

市川希美の声は落ち着いていた。口にする言葉の一つひとつが、頭の中で何度も何度も繰り返しリハーサルされてきたものみたいに、淀みがない。

夏川翔太は目の前の彼女を見つめ、胸の内がぐちゃぐちゃに混ざり合うのを感じていた。

正直に言えば――市川希美は、確かに彼の注意を引いた。

こんなにも眩しい女だったなんて、今まで気づきもしなかった。

喉仏が小さく上下する。何か言おうとした、その瞬間。

横にいた弁護士が身を寄せてきた。

「夏川さん、市川さんの提案は、確かに法外というほどではありません。ひとまず受けておいたほうが……」

夏川翔太は目を伏せるように視線を落とし、曖昧に「……ああ」とだけ返し...

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