第8章

神代史人は、私が彼についていくことを許してくれた。

彼に恩返しをしているつもりだったが、実際には世話を焼かれてばかりだった。

彼は私に朝食を買ってきては、気に入らないなら捨てろと言った。

ある日、神代史人が不意に私に言った。

「お前の学校で何か面白い話とかねぇの?」

「特にありません」

私は少し考えて、そう答えた。

「じゃあ集めてこいよ!」

彼は私の肩をぽんと叩いた。

「ちょっと聞き込みしてこいって」

こうして、私はクラスメイトたちと話をし、学校内の面白い話や噂話を集め始めた。最初は難しかった。どうすれば自然に会話を切り出せるのか分からなかったからだ。しかし、少しずつ、物事は容易になっていった。

「聞きましたか? 三年生の山田先輩が学校一の美人に告白したら、その美人が実は先輩のネト恋の相手だったとか……」

私は真顔で、一字一句違わずにそれらのゴシップを神代史人に復唱した。彼はそれを聞いているうちに、突然噴き出した。

「どうかしましたか?」

私は話をやめ、不思議に思って尋ねた。

「お前さ」

彼は腰を折って笑い転げている。

「ゴシップ話すとき、教科書でも暗唱してるみてぇで、マジでウケる」

私は少し気まずかったが、彼がそんなに楽しそうに笑っているのを見て、心の中に温かいものが込み上げてくるのを感じた。

時が経つにつれ、私の交友関係は徐々に広がっていった。クラスメイトたちが自分から話しかけてきてくれたり、宿題を共有したり、グループ活動に誘ってくれたりするようになった。

「温井さん」

自習の時間に、隣の席の子が小声で話しかけてきた。

「私、前は温井さんのこと、近寄りがたいクールな優等生だと思ってたんだ」

私は微かに笑みを浮かべ、自分が今やっと、本当にクラスに溶け込めたのかもしれないと気づいた。

それは奇妙な感覚だった。ずっと張り詰めていた弦が、ようやく緩んだような。

「神代さん」

ある日の放課後、校門で彼を見つけて声をかけた。

「神代さんの為に、何かしたいです」

彼は眉を上げた。

「俺への恩返しか?」

私は頷いた。

「恩返しってのは、一方的な奉仕だけだと思うか?」

彼は問い返した。

私は一瞬言葉に詰まり、前世での神代良佑への盲目的な献身を思い出した。彼が真夜中に電話をかけてくればすぐに駆けつけたし、彼が病気になれば雨の中資料を届けたし、彼が何かを必要とすれば、私はどんな手を使ってでもそれを満たそうとした……。しかし、彼は一度も、私のことを見てくれることはなかった。

「もう少し自分が楽しくなるやり方を試してみたらどうだ?」

神代史人の声が私を現実に引き戻した。

数日後、神代史人は私に数学と物理のノートを貸してほしいと言ってきた。

「弟分たちに使うんだ」

彼は説明した。

「今どきの不良も教養が必要だからな」

私が丁寧にまとめたノートを渡すと、彼はぱらぱらと捲り、満足そうに頷いた。

「さすが優等生だな」

一週間後、ノートが返却された。驚いたことに、元々綺麗だったノートはさらに体系的にまとめられており、特に数学の部分は、各解法ステップに詳細な注釈と補足が加えられていた。

「これは……」

「史人さんが直々にまとめてくれたんスよ!」

小山が誇らしげに言った。

「史人さん、好き嫌いは激しいけど、数学はめちゃくちゃ得意なんス!」

私はそのノートを捲りながら、胸に温かいものが込み上げてくるのを感じた。

「神代さん」

次に会った時、私は思わず尋ねていた。

「どうして学校に行かないんですか?」

彼の笑顔が微かに強張ったが、すぐにいつもの気だるげな様子に戻った。

「俺のこと知りすぎるのは、あんま良いことじゃねぇぞ」

神代史人が今日、金髪に染めていることに気づいた。初めて会った時に被っていた黒いウィッグとは全く違う。

学校に戻った私は、新しくまとめ直されたノートをクラスメイトたちに共有した。月末のテストが終わると、多くの生徒が私のノートが助けになったと感謝しに来てくれた。

「実は、神代史人さんがまとめてくれたんです」

私は正直に言った。

「彼は数学がとても得意なんです」

「神代史人?」

一人の女子生徒が眉をひそめた。

「あの、私立第一高校の神代良佑の双子の兄のこと?」

教室が、しんと静まり返った。

「中学の時、女子生徒に無理やり暴行して、その子を植物人間にしたっていう、あのクズのこと?」

その女子生徒は、侮蔑に満ちた声で続けた。

私は目眩がした。彼女が嫌悪感を露わに私の机の上にあるノートを踏みつけ、神代史人が丁寧に書き込んだ数式が彼女の靴跡に覆われていくのを見つめた。

「何を言っているの?」

私の声はか細かったが、教室にいる誰もがそれを聞き取った。

「事実を言ってるだけじゃない」

女子生徒は嘲笑した。

「あいつはただの——」

彼女が言い終わる前に、私は飛びかかっていた。

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