第109章

部屋の中をぐるぐると歩き回ってみたものの、ここは狭い。置いてある物も少ない。これといって――

ふと、小原雪美の視線が、カーテンの裏に押し込まれていたものに引っかかった。

二歩ほど近づき、彼女は腰を落として床の黒いバケツをつかむ。ぐい、と力任せに引きずり出した。

特別なものではない。中に入っていたのは釣り道具一式だった。長い釣り竿は年季が入っていて、表面は擦り切れ、傷だらけ。

雪美はためらいがちに竿へ指を滑らせる。しばらく記憶を探るように目を伏せ――次の瞬間、顔色がすっと冷えた。

「……っ」

踵を返し、彼女は部屋を飛び出した。

小さな庭を抜けるとき、隣の家から「カン、カン」と金属...

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