第13章

「どんな匂いだった?」

脇にいた長野警察官が、彼女の感覚の記憶を引き出そうとする。

「……」

小原雪美は深く息を吸い、確信の持てないまま首を傾げた。

「ちょっと、覚えがある……」

ガソリンに木の匂いが混じったような、それに近い気配。しかも事件当時は空から霧雨が漂っていた。雨水、泥、血、生ぬるい排気ガス――それらが最大限に匂いを塗りつぶし、相手の特徴を嗅ぎ分けるのはますます難しくなっていた。

あの、かすかな匂いが「知っている」と訴えてこなければ、最初から過去のものとして切り捨てていたかもしれない。

――待って。

記憶が焦げつくように煮詰まった、その瞬間。小原雪美は反射的に息を止...

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