第137章

タクシーを降りると、小原雪美はうつむいたまま、元の持ち主が住んでいたマンション棟へと歩いた。

エントランスのオートロックを抜け、エレベーターに乗り、目的の階で降りる。防犯扉の前まで来て、指紋錠へ手を伸ばした。

親指がつるりとした認証パネルに触れようとした、その瞬間――彼女はふっと目を細めた。姿勢を崩さないまま、四、五秒。何かを考えているのか、ただ固まっているのか。

リンリンリンリン……

がらんとした廊下に、耳障りな着信音が反響する。小原雪美はバッグからスマホを取り出し、表示を一瞥すると、受話口を耳に当てながら手際よく解錠ボタンを押した。

カチリ。

電子錠が回る音。防犯扉が、ほんの...

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