第139章

 A市公安局。

 小原雪美は、設備の整った取調室で静かに腰掛け、目の前のローテーブルに置かれた薔薇をぼんやり見つめていた。

 花瓶代わりの容器は、どこにでもあるプラスチックの飲料ボトル。薔薇は赤く、たった一輪だけ。花弁には、きらりと光る水滴がいくつも残っている。

 警察が井山ミナミの家から署へ戻ったとき、連行されたのは容疑者の長野美子だけではなかった。小原雪美と、住み込みの若い保姆である高橋小春も、いっしょに連れて来られたのだ。

 ついさっきまで、この部屋で若い警官二人が彼女から事情を聴き、書類をまとめて出ていったばかり。

 高橋小春が口にした手がかりを聞いた瞬間の矢野智の表情を思...

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