第59章

「……」

 沈黙の膜が張りつめた廊下には、遠くで呆然とした患者たちがひそひそ交わす声と、足元で刃物を振り回そうとした凶徒のうめきだけが残っていた。

 小原雪美は、左手の甲に触れるひやりとした感触でようやく我に返った。視線を落とす。点滴の針はさっきの揉み合いのどさくさでどこかへ消え、針穴から血がじわじわ滲んでいる。

 慌てて残っていた医療用テープで針穴を押さえ、そのまま足元がふらつくふりをして廊下の壁に肩を預けた。

「……頭、くらくらする……」

 陸田暁「???」

 いや、さっきの動きはどう見ても「くらくら」じゃなかった。

 とはいえ反応は早い。矢野智が指示を出す前に、陸田暁は近...

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