第92章

エレベーターを降りた矢野智は、目浦旭と長谷川莉子のいる取調室の前を通り過ぎ、ようやく三つ目の取調室のドアを押し開けた。

そのとき小原雪美は、使い捨ての紙コップに入ったぬるいコーヒーをちびちび飲みながら、スマホでニュースを流し見していた。物音に気づいて、少し驚いたように顔を上げる。

「矢野警察官」

彼女は慌ててスマホをしまい、背筋をぴんと伸ばして座り直した。丸く見開いた目の奥には、期待がきらきらと浮かんでいる。

だが矢野智は、いきなり本題に入らなかった。視線を落とし、底が見えかけたコーヒーを二、三度眺めてから言う。

「牛岩真未。A市公安局に来た回数なんて、そう多くないだろ。ずいぶん遠...

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