第百三章 二人の婚約

「降りろ」

花村秋人の声は、どこか掠れていて、押し殺したように低い。

浅倉彩実は慌てて花村秋人の膝の上から転げるように身をずらし、そこでようやく――助手席で笑い死にかけている兄の姿に気づいた。

「げほっ、げほっ! もう、あやちゃんさあ、ちゃんと見てから乗りなよ! 大丈夫大丈夫、花村さんは気にしないって!」

顔を真っ赤にした浅倉彩実は花村秋人を直視できず、浅倉拓実だけをきっと睨む。

「ミアは? 荷物運ぶって言ってたじゃん」

「もう終わった。母さんがさ、今日は秋人にうちで晩ご飯食べていけって言うから。だったらついでに迎えに行こうと思って」

「……ふーん」

浅倉彩実はなんとなく後ろめ...

ログインして続きを読む